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【公開前レビュー】『侵蝕』 悲劇的な娘と母の関係に埋め込まれた衝撃

今回紹介する作品は、常軌を逸した「誰か」がとある日常に「侵蝕」し、日常を崩壊させていくさまを描いたサスペンス・スリラー『侵蝕』。

本国韓国で大きな反響を浴びた本作は、一人の少女が見せる異様な性質に周囲の人間が翻弄されるさまを、20年の時を隔てた二つの場面で描いた物語です。

第 29 回釜山国際映画祭「コリアンシネマトゥデイパノラマ」部門に公式招待されて以降、本作は世界各国の映画祭より次々と招待を受け、世界的にも熱い注目を浴びています。本国韓国では実写映画として初登場 1 位という快挙を成し遂げ、大きな話題を呼びました。

【概要】

(C)2025 STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved.

幼い娘の異常行動に人生を侵されていく母親の姿と、20年の時を経てなお狂気を見せる「怪物」のおぞましい姿を追った韓国発のサスペンススリラー。

韓国のキム・ヨジョン、イ・ジョンチャンというコンビが監督、脚本を手がけました。

メインキャストとしては、母子役をドラマ『ムービング』のクァク・ソニョン、ドラマ『私たちのブルース』のキ・ソユが担当、20年の時を経て登場する二人の女性をアイドルグループ「少女時代」のクォン・ユリ、『D.P. 脱走兵追跡官』のイ・ソルが演じました。

2025年製作/112分/G/韓国

原題:침범(英題:Somebody)

配給:シンカ

劇場公開日:2025年9月5日

【監督・脚本】キム・ヨジョン、イ・ジョンチャン

【出演】クォン・ユリ、クァク・ソニョン、イ・ソル、キ・ソユほか

【あらすじ】

シングルマザーであり水泳インストラクターとして働く女性、ヨンウン。

彼女の平穏な日常は、日に日に酷くなっていく7歳の娘ソヒョンの奇妙な行動と言動により、徐々に浸蝕されていきます。

周囲を危険にさらす娘の行動を阻止しようとするヨンウンでしたが、事態はさらにエスカレートし、母娘の関係は闇に包まれていきます。

そして20年後。特殊清掃の仕事に携わるミンと、新たに仲間として加わった同僚ヘヨンは全く正反対の性格を持ちながらも、それぞれに暗い過去を抱え、どこか周囲に心を閉ざす一面を持っていました。

共同生活が始まり、仕事仲間たちは徐々に距離を縮めていく一方で、周囲で次々と不可解な出来事が発生し…

【『侵蝕』の感想・評価】

「サイコパス」気質の女性を通して描いた“侵す者”と“侵される者”の構図

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血にまみれた虐殺シーンや、おぞましきモンスターの姿があるわけでもないのに、見る者の胸の内に、さらに恐ろしい怪物の像を描き出す。本作の魅力は、その心理的に恐怖を増長する像を作り上げ、強く訴えてくる怖さにあるといえるでしょう。

冒頭よりその異端ぶりを発揮する少女ソニョン。その本質にはいわゆる「反社会性パーソナリティ障害」、サイコパスと呼ばれる性質があります。

表向きには常人の表情を持ちながら、裏では人を支配し、時には傷つけたりしながら、自身の行動に罪悪感もおぼえない。韓国サスペンスではわりに多く扱われるテーマであり、近年はこのサイコパスという性格をさまざまな視点で扱った作品も排出されています。

一方で本作はどちらかというとメインストリーム的な志向の物語とし「当人の周辺にいることの恐れ、怖さ」といったポイントにスポットを当てながら、二つの人間関係の中に“侵す者”と“侵される者”という構図を描いているわけです。

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冒頭のブロックでは、“侵す者”と“侵される者”を娘と母という関係で描写。胸の内にある狂気で相手を支配しながら、表向きには”かわいそうな子ども”を演じる娘と、幸せな結婚、出産を経ながら、問題が後を絶たない娘の行動に頭を悩ませる母。

この二人の関係は、結果的に悲劇で幕を閉じ、“侵す者”が勝利するわけですが、そこまでの経路に“侵される者”の反撃の余地が見えないところにその恐ろしさ、脅威が示されます。

物語のキーとなる少女、ソヒョンを中心にこの“侵す者”の性質が顕著に描かれており、さらに20年後の物語でその印象を鮮明にするという構成としています。

特にこのソヒョンを演じたキ・ソユのインパクトは強烈。特徴的なのは狂気を発揮する場面より、むしろその狂気を隠した表向きの何の変哲もない表情に、その怖さ、不安感が発揮されています。子役ながらにその才能の片鱗が垣間見られ、高く評価できる役者といえるでしょう。

二つの時代感に埋め込まれた衝撃的な「肩透かし」

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母と娘が迎えた衝撃の瞬間より20年の時を経て、再び狂気を見せていく、過去にソヒョンという名であった女性。そしてミン、ヘヨンという二人の女性における日常の風景で、改めて“侵す者”と“侵される者”という構図が描かれていきます。

二人の女性には過去に母親との関係において、大きなトラウマを抱えているという点で共通した意志を持っていますが、その素養があるからこそ逆に“侵す者”と“侵される者”の対比が明確に浮かび上がってきます。

クライマックスの展開には2009年の『エスター』を思い出す方もおられるのではないでしょうか。そこに現れる肩透かしには、恐らく多くの人が心地よい衝撃をおぼえることでしょう。

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また、冒頭ブロックのクライマックスに見られるソヒョンと母との対峙シーン、そして全編のラストに見られるシーンは、思わず目を奪われる美しさが見えてきます。

その反面、このシーンには物語の本質に迫るような要素が感じられます。具体的には“侵す者”と“侵される者”の関係。”侵される者”は“侵す者”に感化され狂気をはらんでいきますが、逆に”侵される者”が“侵す者”を侵していくことはないという論点を示しています。

エンディングに登場する「過去にソヒョンであった女性」が語る恐ろしいまでの言葉は、ある意味「悪魔が実在したらこんな感じだろうか」と思わせるような恐怖感をおぼえるものであります。

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