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【公開前レビュー】『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』シンデレラから「継母の娘」へ。知られざる悲劇と残酷描写の美学

誰もが知る童話をベースに、現代にも通じるルッキズムに対しての滑稽で皮肉たっぷりな風刺を描いたボディ・ホラー『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』。

世界で最も知られるおとぎ話の一つ「シンデレラ」をモチーフとし、美しいへの強い嫉妬と妬みを向ける醜い義姉妹の姿にスポットを当てた物語が展開していきます。

ベルリン国際映画祭やブリュッセルファンタスティック国際映画祭をはじめ20もの映画祭にて正式出品され、多くの話題を呼び数々の賞を獲得、本国ノルウェー公開時には4週連続でTOP10入りを果たし、大ヒットを記録するなど、要注目の作品です。

【概要】

(C)Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025

童話「シンデレラ」をモチーフに、継母の娘に視点を置いたスピンオフ的ゴシック・ボディホラー。王子の妃に選ばれるべく想像を絶する痛みと恐怖に身を投じる主人公の姿を通して、暴走する美と富への執着と狂気を描きます。

作品を手掛けたのは、ノルウェーの新鋭エミリア・ブリックフェルト監督。本作が長編デビュー作となります。主演を務めたのは、ノルウェーのモデルで俳優のリア・マイレン。

原題:Den stygge stesøsteren(英題:The Ugly Sister)

監督・脚本:エミリア・ブリックフェルト

出演:リア・マイレン、アーネ・ダール・トルプ、テア・ソフィー・ロック・ネス、フロー・ファゲーリ、イサーク・カムロートほか

2025年製作/109分/R15+/ノルウェー・デンマーク・ポーランド・スウェーデン合作

配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

公式サイト

劇場公開日:2026年1月16日より全国ロードショー!

【あらすじ】

スウェランディア王国のユリアン王子は、すべての女性が憧れる存在。

継母のレベッカと共に国へやってきたエルヴィラは、王子の花嫁になることを夢見ていましたが、美貌の義妹アグネスとは対照的に控えめな容姿でした。

そんな中、アグネスの父が急逝すると事態は一変。レベッカは娘のエルヴィラを王子の花嫁にするため、美しいアグネスを貶め、エルヴィラに手段を選ばない過激な美容を施していきます。

やがて、花嫁候補が集う舞踏会が開かれますが……。

【『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』の感想・評価】

悲劇を美学に変える、ギリギリの残酷描写

(C)Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025

近年パブリックドメインとなった童話を再解釈するホラー作品がにわかに注目を集めていますが、本作は単なる残虐なホラーという枠には収まらない、極めて高い芸術性とセンスを感じさせる異色作です。

『シンデレラ』のスピンアウト的な物語でありながら、その映像表現は、観客の想像力を深く刺激することで、痛烈な悲劇をより強く心に刻み込みます。

主人公がたどる残酷な運命は、終始ギリギリのところで表現が抑えられています。

(C)Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025

あえて直接的なグロテスク描写を避け、その代わりとして、主人公が追い詰められ、無残な結末を迎えるまでの過程を、耽美的で抑制された美学をもって描かれています。

この手法は、観客自身の内側にある「痛み」の記憶を呼び起こし、この“見せない”演出こそが、逆に「痛い」「無残」といった悲惨な状況を、観る側の脳裏に強烈に焼き付けます。

映画評論家たちから「新しい童話ホラーの形」として絶賛され、サンダンス映画祭や数々のファンタスティック映画祭で高い評価を得たというのも納得。まさに「残酷描写のセンスの高さ」を証明する一本と言えるでしょう。

童話的な世界観に現代的なサスペンスと心理描写を融合させた、映像自体の見どころに満ちた作品。特に視覚的な情報が遮断されることで、観客が自ら結末の恐怖を補完させられる構成は秀逸です。

童話の裏側に隠された、母と娘の歪んだメッセージ

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物語の最大のユニークさは、視点を継母の娘、つまり“アグリーシスター”に置いている点です。

オリジナルの童話における継母の娘たちは、往々にして継母と同列に見なされがちで、その明確な個性や内面は不確かなままです。

しかし本作はこの不確実性をキャラクターの深掘りに活かしており、主人公はその「不確かな部分」を巧みに利用し、物語に深みを与えています。

継母の行動原理は、ある種の現代的な歪みを象徴しています。

彼女は娘を真の意味で見ておらず、社会的な成功や承認欲求の投影として「養子だけが幸せの鍵となる」という妄執的な考えに取り憑かれ、実の娘たちにさえ極めて残酷な運命を強いるのです。

(C)Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025

姉はそんな母の考えを盲目的に踏襲し、どんなにひどくつらい状況に追い込まれても、その思いを貫こうとします。

その結果として迎える無残な結末は、オリジナルの童話では見えなかった、いびつな母の愛と、それに応えようとする娘の悲しい献身という新しい視点を提示します。

母の教えを忠実に実行する姉と、そんな姉を見て冷徹な現実を知る妹(主人公)の対比も鮮烈です。

この物語は表向きの童話のハッピーエンドとは裏腹に、自己犠牲と間違った信念がもたらす悲劇という、親子の関係性における普遍的なテーマを痛烈な形で描き出しています。

単なる恐怖で終わらず、家族の期待、社会の圧力、そして自己認識の葛藤といったさまざまな問いかけをおこなうメッセージが込められた作品です。

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