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【公開前レビュー】『エディントンへようこそ』(LV.2)不条理な分断が燃え上がる“炎上スリラー”の恐怖
怖さレベル3:緊張と分析

【怖さレベル2:ゾクッ】ふと「ゾクッ」とする場面もありながら、初心者でも大丈夫!


数年前に現実世界を席巻したコロナ禍の様相を背景に、とある一つの町で巻き起こった騒動を描いたサスペンス『エディントンへようこそ』。

コロナ禍における閉塞感に業を煮やした一人の保安官が立ち上がるも、その行動がとんでもない事態を引き起こす。本作は、現代社会における普遍的な不安、恐怖を鮮烈に描き出します。

A24×アリ・アスター監督という強力なタッグに加え、前作『ボーはおそれている』に引き続きホアキン・フェニックスが主演。全く異なる作風での存在感も注目される本作は、2025年・第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品されました

【概要】

(C)2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

コロナ禍でロックダウンされた小さな町で、ギクシャクした雰囲気に業を煮やした保安官が市長選に参加、その行動が全米を巻き込む大事件へと発展していく様子を描いた物語。

本作を手掛けたのは、2019年のサスペンス映画『ミッドサマー』で大きく注目されたアリ・アスター監督。

キャストには『ザ・マスター』『ビューティフル・デイ』『ジョーカー』などのホアキンフェニックス、『イコライザー2』『ビール・ストリートの恋人たち』などのペドロ・パスカル、『ラ・ラ・ランド』『哀れなるものたち』などのエマ・ストーン、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『ザ・バイクライダーズ』などのオースティン・バトラーらが名を連ねています。

原題:Eddington

監督・脚本:アリ・アスター

出演:
ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード、アメリ・ホーファーレ、クリフトン・コリンズ・Jr.、ウィリアム・ベルーほか

配給:ハピネットファントム・スタジオ

公式サイト

劇場公開日:2025年12月12日より全国ロードショー!

【あらすじ】

2020年、ニューメキシコ州の小さな町、エディントン。

ロックダウンで閉塞した空気の中、保安官ジョーは再生計画を進める市長テッドと衝突し勢いのまま市長選へ出馬します。

対立は住民へ飛び火し、SNSでは偽情報や憎悪が渦巻き炎上。一方でジョーの妻ルイーズは扇動的なカルト動画に魅了され陰謀論に傾倒するなど、彼の周りは混沌としていきます。

信頼は崩れ、議論は激しさを増し、町は暴力と分断の連鎖に飲まれ崩壊へ突き進んでいくのでした……。

【『エディントンへようこそ』の感想・評価】

1.【戦慄分析】 炎上スリラーが生む”不条理”の恐怖

当サイトによる怖さレベル:LV.2(初心者対応)
図:映画『エディントンへようこそ』の「怖さ」レーダーチャート

描写の許容度チェック:
グロテスクなビジュアル/流血:軽微(ホラー初心者可)
音響による不快感・不協和音:あり(中)

演出分析:【A24流の知性「誰も信じられない」不信感で加速する絶望が生む恐怖】
(C)2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

本作の恐怖は、心理的恐怖(内面性)に極端に傾倒しています。全編を覆う「不条理」と、現代社会が抱える「分断」がその根源です。

主人公が抱く不安や、住民同士の激しい衝突は、観客自身の倫理観や社会への不信感を揺さぶり、静かに心に浸透します。

特に終盤の予測不能なシーンは、ジャンプスケアとは異なる「予測を裏切る」展開で、見る側が心臓をわしづかみにされるような緊張を誘います。

2.【作品の批評】 A24作品としての成熟度と映像技術

(C)2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

映像としては、非常に成熟したアスター監督の作家性が強く反映された作品であるといえるでしょう。強い関係性をもつA24製作ということもあり、キャストやメッセージ性などすべての要素が高いレベルで融合しています。

また主演のホアキン・フェニックス、そしてペドロ・パスカル、エマ・ストーンなど豪華俳優陣が緊張感あふれる芝居を展開しており、その強い個性をもつキャストを、人間の内面の不安や分断というテーマにじっくり向き合わせている点に、アスター監督自身ならではの演出哲学が際立っています。

映像面でもアスター監督らしい独特の美意識が健在。日常の町並みの中にふと模型のようなミニチュア感を覚えるアングルや構図は監督作『ヘレディタリー 継承』『ボーは恐れている』といった作品でも見られた特徴ですが、これら差し込まれたアングルは“どこか非現実に近い現実”をさまようような視覚体験をします。

(C)2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

また時に現れる長回しのシーン構成では、登場人物の心理状態を繊細に描き出す中で「逃げ場のない心理的な圧迫感」を観客に与え、先述の心理的恐怖へとつながる持続的な不気味さを生み出しています。

さらに上映時間が約149分と結構な長尺にもかかわらず、退屈さをそれほど感じさせないのは、物語の密度とテンション、そしてキャラクター間の緩急あるドラマ展開ならでは。

ラストに向け観客は先の読めない展開に引きずられ、最後には「これは風刺なのか」「ディストピア?」「コメディか」と判断を迷わせるような終わり方を迎えます。

この終幕もまたアスター監督らしい苦味と余韻を残す構成といえ、観終わった後も心に重く、しかし鋭く残る印象を残すでしょう。その意味ではアスター監督のこれまでの作風を踏まえながらも、新境地を開いた作品だといえます。


3.【深掘り考察】 「安心を拒否する」アスターの視点:分断と共生の問い

3.1 情報社会が産む「自己増殖する怪物」

(C)2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

本作は単なる社会風刺を超え、現代社会における恐怖の発生メカニズムそのものを描いた『炎上スリラー』です。

アスター監督は10月31日に東京で行われた来日イベントで「観客が求める安心を拒否し、現実を映す映画を作りたい」と語っており、本作でも混沌そのものを描く姿勢が貫かれています。

作品の中では、物理的な暴力よりもSNSの炎上や無限スクロール、対立の激化といった現代社会のメディアに潜む不安定さを、スリラーやブラックコメディの要素を用いて鋭く浮かび上がらせ、「自己増殖する怪物」となっていく様が描かれていきます。

3.2 「現代社会の縮図」的な街風景に見える普遍性

(C)2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

物語の舞台は2020年、コロナ禍でロックダウンが続く米国ニューメキシコ州の小さな町エディントン。住民たちの不安や不満が高まる中、市長選を巡る対立が激化し、町全体が緊張と混乱に包まれていきます。

保安官ジョーはマスク義務化やロックダウンに反発する声を背景に市長選へ立候補し、現職候補テッドと争います。この選挙戦は町を二分し、SNSにはフェイクニュースや陰謀論が拡散し、住民同士の分断はますます深まっていきます。こうした状況は決して架空の出来事ではなく、私たちが生きる現代社会の縮図のようにも見えてくるでしょう。

マスク論争という身近なテーマから、不信感の増幅、恐怖と憎悪の連鎖、暴力の発生へと展開していく過程は、小さな町の物語でありながら現実社会と強く重なる部分があります。

3.3 絶望の先に残された「正解のない問い」

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また特に印象的なのは、悲劇的でありながら風刺性を帯びたラストシーンです。

一見すると問題が解決したようにも見えますが、「これは終わりではない」という不穏な感覚を観客に残します。

加えてアメリカ社会における人種差別や思想対立を小さな町というミクロな視点に落とし込むことで、「こうした光景はどこにでも起こり得る」という普遍性を浮かび上がらせており、人々が情報戦争ともいえる永遠の地獄(ディストピア)に立ち入っていることへの、痛烈な皮肉を込めた警告を発しているようでもあります。

一方でアスターは、恐怖や孤独を共有することで「ひとりではない」と思える可能性についても語っており、分断の中での共感や連帯へのささやかな希望も感じさせます。

炎上と分断の時代を風刺しつつ「正解のない世界でどう共に生きるか」という問いを、観衆に投げかける作品であるといえるでしょう。


【次回の予告】

知的な炎上スリラーの次は、カルト的な人気を持つホラー作品へ。

次回は漫画家・森野達弥の人気作品を原作とした2022年公開映画の続編『怪奇タクシー 布告を知らぬ者達に』を深掘りします。

熱狂的なファンを持つ原作を、映画製作においてどのようにその物語の真意をくみ取ったのか? 掘り起こしたポイントから作品の裏側にある「人を引き付ける要因」と、純粋なオムニバスホラーとしての恐怖の深層を徹底分析します。

引き続き、当サイトにご期待ください!

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