【怖さレベル3:緊張】多少の「怖さ」はありますが、考察に集中できる中級者向け。
人里離れた場所にそびえ立つ鉄塔の登頂に挑み、不慮の事故に遭遇!二人の女性が絶望的な状況の中で必死のサバイバルに挑む姿を描いたシチュエーション・スリラー『FALL/フォール』。
サッカースタジアムでのテロに巻き込まれたアメリカ海軍特殊部隊の元軍人の奮闘劇を描いた映画『ファイナル・スコア』を手掛けたスコット・マン監督による本作。
作品は2017年のシチュエーション・スリラー『海底47m』を手がけたスタッフとともに製作され、そのリアリティーあふれる鉄塔頂上のスリリングな映像表現で大きな話題を浴びました。
日本でいえば東京スカイタワーの頂上に匹敵する高さでのスリリングな人間ドラマ。文字通り「高所恐怖症の方は閲覧注意」のサスペンス物語です。
【概要】

人里離れた廃墟となった地上600メートルの超高層鉄塔に取り残された二人の若者が、静観のために奮闘するさまを描いたサバイバルスリラー。
『タイム・トゥ・ラン』『ザ・トーナメント』『ファイナル・スコア』を手掛けたスコット・マンが監督・共同脚本を務めました。
メインキャストとなる女性二人を『シャザム!』シリーズ、『アナベル 死霊人形の誕生』のグレイス・キャロライン・カリーとドラマ『マーベル ランナウェイズ』や『ハロウィン(2018)』『最高に素晴らしいこと』のバージニア・ガードナーが務めます。
さらに2022年版『スクリーム』のメイソン・グッディング、ドラマ『ウォーキング・デッド』シリーズのジェフリー・ディーン・モーガンが脇を固めました。
原題:Fall
監督・共同脚本:スコット・マン
出演:グレイス・キャロライン・カリー、バージニア・ガードナー、メイソン・グッディング、ジェフリー・ディーン・モーガンほか
配給:クロックワークス
【あらすじ】
ある山でのフリークライミング中に夫を落下事故で亡くした女性・ベッキー。
事故から1年が経った現在も悲しみから立ち直れずにいた彼女を、親友ハンターは元気づけるべく、新たなクライミング計画を相談しに来ます。
それは、人里離れた砂漠の中にある、現在は使用されていない地上600メートルの超高層テレビ塔に登ること。
二人は老朽化して不安定になったはしごを登って、頂上へ到達することに成功します。ところが喜びもつかの間、塔を降りようとした瞬間にはしごは崩壊し二人は頂上に取り残されてしまいます……。
【『FALL/フォール』の感想・評価】
1.【戦慄分析】 急激な「身体緊張」を呼ぶ演出に要注意
当サイトによる怖さレベル:LV.3(多少の緊張あり)

グロテスクなビジュアル/流血:2(超初心者でも安心)
音響による不快感・ノイズ:あり(強)
演出分析:「王道ホラー」とは異なる、「身体にくる緊張感」を追究した恐怖に注意

本作はグロやジャンプスケアが「2 / 5」で平均でも3.4程度と、一見レベル的にはホラー初心者でも安心と感じられますが、「高さ」の描写が非常にリアルなため、高所恐怖症の方はPCやスマートフォンの画面越しでも、強い緊張感やヒヤリとする感覚を覚えるかもしれません。
その分、スリラーとしての没入感は抜群ですので、体調に合わせて無理のない範囲で楽しむことをお勧めします。
「心理的・精神的恐怖」と「雰囲気・不気味さ(緊張感)」が振り切れている、いわゆる「身体にくる緊張感」を極限にまで追究した演出といえるでしょう。
2.【作品の批評】「見る」こと自体が恐怖になる映画体験

本作は、とにかく「高さ」による恐怖を真正面から観客に突きつける作品です。
高所恐怖症の人にとっては、テレビやPCといった小さな画面で鑑賞していても、気分が悪くなるほどの臨場感があります。映画だと分かっていても身体が拒否反応を起こしてしまう、その感覚こそが本作の最大の特徴だといえるでしょう。
興味深いのは、夜の暗さがある場面のほうが、かえって恐怖が和らぐ点です。視界が制限されることで「見える範囲」が少なくなり、高さを実感しづらくなるからです。
逆に前半の明るい時間帯では、地上がはっきりと視認でき、「落ちる」という想像が強烈に喚起されます。後半で比較的カメラが安定するのは観客を「揺さぶられる被害者」から、彼女たちの生死を見届ける「冷徹な目撃者」へと引き戻すための、意図的な演出の切り替えといえるでしょう。

その最大の要因は、カメラ視点の不安定さにあります。超高層タワーの頂上にいる二人を捉えるカメラは、とにかくよく動きます。
視点が上下左右に揺れ、観る側の感覚も不安定になり、映像そのものが恐怖を増幅させていきます。一方、後半になるとカメラは比較的安定し、その分、物語を展開させる余白が生まれてきます。
ビジュアルのインパクトを前面に押し出す前半から、サバイバル精神や人間関係を掘り下げる後半へ。この明確な映像ポリシーの切り替えが機能しているからこそ、本作は単なる高所スリラーに終わらず、ドラマ性やメッセージ性を感じさせる作品に仕上がっています。
3.【深掘り考察】無謀さと生存本能のあいだで揺れる人間心理
3.1 SNS時代の無謀な挑戦―なぜ人は危険へと向かうのか

本作の冒頭、恋人が滑落するシーンによって、恐怖はすでに「現実」として提示されます。それにもかかわらず、なぜ彼女たちはこんな危険な行為を続けるのか、観客は強い違和感を覚えます。
そこには、SNS時代特有の無謀な挑戦への危惧が色濃く反映されているといえます。
画面の向こう側にいる視聴者は安全な場所から、より過激で刺激的な映像を求めます。冒険系動画の中には常軌を逸したものも多く、実際に社会問題となっているケースも少なくありません。評価の高さや収益といった「目に見える栄誉」は、発信する側を中毒状態に陥らせていきます。

「いいね!」や再生回数という具体的な数字に支えられ、恐怖の状況にありながら笑顔を浮かべる瞬間もあり、「生き残れる」と信じ込む感覚はもはや正常とはいえません。
そのしっぺ返しの象徴とも見られるのが、ハンターの無残な死です。超常現象ではなく、確実に死へとつながる「落下」の恐怖が、本作では容赦なく突きつけられています。
彼女たちを無謀な挑戦に突き動かした「いいね!」の正体は、安全な場所から消費される「他人の命を賭けたエンターテインメント」への渇望と見ることもできるでしょう。
本作は無謀な挑戦者だけでなく、それを助長する現代社会の視線そのものにも、痛烈なメッセージを浴びせています。
3.2 それでも人は、生きるために強くなる

それでもこの物語は、そんなネガティブなテーマと並行して「人が極限状況で見せる前向きな強さ」も描いています。はしごの崩落によって状況が決定的になった瞬間から、彼女たちは生きるための施策を次々と打ち出していきます。
普通であれば、もっと慎重に行動するはずの場面でも、「待ってはいられない」という切迫感が彼女たちを突き動かします。
生きることが最優先になるとき、選択をためらう余裕すら惜しくなる。その姿は、観る側に「決断すること」そのものを問いかけているようにも映ります。
クライマックスで主人公が最後の賭けに出る場面では、現れたハゲタカと目が合い、ハゲタカは恐れて飛び去っていきます。この一瞬は、彼女の覚悟と強さを象徴的に表す場面です。

一方、本作を語るうえでもう一つ見逃せないのが、メインキャストが二人とも女性であるという点です。もしこれが男女、あるいは男性二人の物語であったなら、スリラーとしての緊張感は保たれても、ここまでの多層的な意味合いは生まれなかったかもしれません。
無謀ともいえる挑戦に踏み出す衝動、愛する人を失った喪失感、仲間を失った痛みを抱えながらも生き抜こうとする執念、そのすべてが「女性二人」をメインで描く構図によって、より強く印象づけられています。
それは単なるキャスティングの妙ではなく、現代的な「女性の進出」や「主体的に選択する存在としての女性像」を、さりげなく映し出しているようにも見えます。
守られる側ではなく自ら決断し、危機を引き受け、結果を背負う存在として描かれる二人の奮闘ぶりは、守られる対象としての「ファイナル・ガール」ではなく、自らの過ち(無謀さ)を自らの決断と肉体で贖おうとする者の姿そのものであり、その光景は現代的なサバイバル・ヒロイン像を新たなものとしています。
このイメージは一作限りのものではなく、すでに製作が進んでいる続編『FALL 2』でも、再び女性二人がメインキャストとして据えられていることから、シリーズ全体を貫く重要な要素になっていく可能性が高いと考えられるところであります。
4 『FALL 2』は何を描くのか

2024年12月にはフェイクのポスターが出回り話題となった、本作の続編。実際に『FALL 2』の製作はすでに撮影も完了して製作も進行しており、さらに本シリーズが三部作になることも発表されています。次作の主人公は、1作目で悲劇的な最期を迎えたハンターの妹です。
作品を手掛けるのは、『ジグソウ:ソウ・レガシー』『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』などで知られるマイケル&ピーター・スピエリッグの双子兄弟監督。
緻密なギミック設計と倫理的なジレンマ、繊細な心理描写には定評があるだけに、次々と希望が打ち砕かれる過酷な展開も十分に予想されます。
『FALL/フォール』が描いたのは、ただの高所恐怖ではなく、現代社会が抱える欲望と、人が生き抜こうとする本能でした。
続編では、そのテーマがどこまで拡張され、どんな形で観客の恐怖と向き合うのか。シリーズの行方に、自然と期待が高まるところです。
【次回の深掘り考察】
2026年、最初の深掘り考察は 『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』をお届けします。
60年の時を超えて交錯する、美しくも残酷なロンドンの夜。エドガー・ライト監督が描く視覚的陶酔と、その裏側に隠された「憧れ」が変質していく恐怖の正体とは?
新年を飾るにふさわしい、極上のビジュアル・スリラーを徹底分析します。
引き続き当サイトならではの独自考察にご期待ください!


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