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【公開前レビュー】『鬼胎(クィテ) 黒い修道女』(LV.3)信仰のタブーと生きづらさの狭間で生きる女性の姿から描かれた人間像
怖さレベル3:緊張と分析

【怖さレベル3:緊張】多少の「怖さ」はありますが、考察に集中できる中級者向け。


原因不明の発作に苦しむ少年を救うべく、信仰のタブーを破り禁断の悪魔祓いを試みる修道女たちの姿を描く韓国発のホラー映画『鬼胎(クィテ) 黒い修道女』

「鬼胎」とは本来、(仏教用語などで)心の中に宿る邪悪な兆し。つまり恐れや心配事、心に抱いた悪巧みや不吉な考えを指す言葉ですが、物語ではこの「鬼胎」のレッテルを張られた二人の女性が、自身の運命を乗り越えて戦う姿が描かれています。

ホラーにおける悪魔祓い(エクソシズム)といえば、古くは映画『エクソシスト』で描かれたような信仰を試される場が最も強いイメージですが、本作は少し趣を異にしています。

社会のルールや過去の罪という『見えない鎖』に縛られた女性たちが挑む戦い。本作ではその極限状態の中における戦いの中で、彼女らの奥底にある「禁忌を犯してでも自分自身を取り戻そうとする」魂の姿が映し出されています。

【概要】

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修道院を舞台に、信仰のタブーと向き合いながら「悪魔」という絶対的な存在に立ち向かう二人の修道女を描いたオカルト作品。

監督を務めるのは『トラブルシューター 解決士』を手掛けたクォン・ヒョクチュ監督。

メインキャストにはドラマ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』のソン・ヘギョ、『ハルビン』『少女』などのチョン・ヨビンの二人が担当、ほかにも『怪しい彼女』のイ・ジヌク、ドラマ『無人島のディーバ』のムン・ウジンらが共演に名を連ねています。

原題:검은 수녀들 | (英題:DARK NUNS)

監督:クォン・ヒョクチュ

出演:
ソン・ヘギョ、チョン・ヨビン、イ・ジヌク、ムン・ウジンほか

配給:クロックワークス

公式サイト

劇場公開日:2026年1月30日より全国ロードショー!

【あらすじ】

原因不明の激しい発作に苦しむ少年ヒジュン。

「黒い修道女」と呼ばれるシスター・ユニアは、その症状が凶悪な存在である「十二悪魔」によるものだと確信し、悪魔祓いを行うべきだと訴えます。

しかし担当医であるパク神父は、それを複数の精神疾患が重なった結果だと判断し、悪魔の存在そのものを否定します。

薬物治療や心理療法も効果を示さず、ヒジュンの状態は悪化の一途をたどります。追い詰められたユニアは、教義によって固く禁じられているにもかかわらず、自ら悪魔祓いの儀式を行う決意を固めます。

そして彼女はパク神父の弟子である修道女ミカエラを巻き込み、禁断の儀式に踏み出した二人を待ち受けるのは、救済か、それともさらなる悲劇か――。

【『鬼胎(クィテ) 黒い修道女』の感想・評価】

1.【戦慄分析】「ホラー」的な空気感は深いが受け止めやすい

当サイトによる怖さレベル:LV.3(恐怖の余韻あり)
図:映画『鬼胎(クィテ) 黒い修道女』の「怖さ」レーダーチャート

グロテスクなビジュアル/流血:中程度(ホラーに慣れている人向け)

音響による不快感・ノイズ:あり(中)

演出分析:「怖さ」を抑えた先に立ち上がる感情

「悪魔に取りつかれる人間」の描写には、ホラージャンルとして比較的スタンダードなグロテスクさや衝撃が見られます。ただしその表現は、過剰に恐怖を煽るものではありません

本作の登場人物が前面に押し出しているのは、いわゆる「怖さ」による恐れよりも、「迷い」「焦り」、そして「執念」といった感情の揺らぎ。本作には悪魔憑きという題材を扱いながらも、観客に強烈な恐怖体験を与えることより、人が追い詰められたときに抱く感情の重さを丁寧に描いている印象があります。

「雰囲気・不気味さ」の5という評価は、「怖さ」というよりも「畏怖」、つまり神仏、自然、偉大な人物などの圧倒的な力を持つ存在に対して「恐れおののく」と同時に「尊敬し、かしこまる」気持ちを抱く、宗教画を眺めて感じるようなイメージからくるもの。

ある意味ホラー的な演出に耐性がない観客でも比較的受け止めやすく、むしろ「ジャンル作品への入り口」であるといえる側面も感じられます。

2.【作品の批評】重厚さと抑制が生む独特の空気感

映画『검은 수녀들(日訳:黒い修道女)』制作報告会 「ソン・ヘギョの抑制された演技が、本作の『怖さよりも意志』というトーンを決定づけている」

宗教的なモチーフが持つ荘厳さと相まって、画面からは非常に重厚な印象が立ち上がります。

本作は、全体を通して悪魔祓いの場面を暗く抑えたトーンで描いていますが、その中では人物の輪郭が失われておらず、映像としての美しさは保たれています。

明るい場面で描かれる主人公の「悩み」、そして暗闇の中で浮かび上がる「戦う姿」。その対比のバランスも良く、物語の感情的な起伏を自然に支えています。

展開自体はいわゆるエクソシスト作品の王道を踏襲していますが、過剰な演出で恐怖を煽ろうという意図は感じられません。むしろ、現実に起こり得るかもしれないと想像させる「リアリティ」を追求した結果の表現だといえるでしょう。

音楽もまたその姿勢を反映しています。この作品ではジャンプスケアを強調する効果音としてではなく、どこか物悲しさを帯びた旋律の音楽がメインで用いられており、どちらかというと「雰囲気」につながる効果を狙ったものとみられます。

これらの意味でも、本作における「恐怖」は後述するテーマを浮かび上がらせるためのエッセンスとして機能しています。


3.【深掘り考察】「ホラー」のフォーマットを利用して描かれる「信念への挑戦」

3.1 タブーを越える信念が示すもの

映画『DARK NUNS』: 海外公式トレーラー

本作は『プリースト 悪魔を葬る者』の続編、あるいはスピンオフ的作品と位置づけられています。一見するとそのつながりはラストのエピソードで示唆される程度にも見えますが、実際には物語全体の流れの中で明確な精神的継承が感じられます。

『プリースト 悪魔を葬る者』では、「タブーを犯してでも守るべきものがある」という信念のもと、神父たちが悪魔祓いに挑む姿が描かれていました。そこには、宗教という絶対的な存在意義そのものを問い直す意志がありました。

本作で描かれるのは、叙階を受けていない修道女ユニアが、教義に反する行為と知りながら悪魔祓いに身を投じる姿です。しかも彼女は、手段を選ばず悪魔と向き合うという強い姿勢を貫いていきます。この「タブーを越える覚悟」は、前作と強く共鳴する要素だといえます。

映画『プリースト 悪魔を葬る者』トレーラー

さらに注目すべきは、「鬼胎」という生きづらさの象徴を、宗教という人を縛る存在と対比させて描いている点です。

ショック演出で観客を疲れさせるような作品ではありませんが、メインキャストである二人の修道女、その葛藤と決意にスポットを当てる。その「静かな戦い」のさまにこそ、本作の本質があります。

縛るものと、揺るがない信念。その対立の中でユニアは信念を貫きますが、結末は必ずしもハッピーエンドという形ではありません。しかしそれは、「自分を縛るもの」と戦い、その結果を引き受ける姿を肯定的に描いた結末でもあります。

物語では社会の中で規律やレッテルに縛られながら生きることの苦しさ、そしてそれを打ち破ろうとする強さ――その過程そのものにカタルシスを見出しています。その意味で本作は「ホラー」という大枠を用いて描かれる「女性たちの解放の物語」であるともいえるでしょう。

3.2 「誰かに救われる」物語が映す現代性

映画『ディヴァイン・フューリー』トレーラー

邪悪な存在や精神を侵食する空気感と、宗教との関わりを描くエクソシスト的作品は、近年の韓国映画において顕著な潮流となっています。

『プリースト 悪魔を葬る者』『ディヴァイン・フューリー』『メタモルフォーゼ/変身』、さらには宗教は異なるものの『コクソン』なども含め、「魔除け」や救済をテーマとする作品が次々と発表されてきました。

これらの作品に共通するのは、「当事者ではない誰かが救いの手を差し伸べる」という構図です。近年本国韓国でもヒットし話題を呼んでいる『悪魔祓い株式会社』や『破墓/パミョ』においても、同様に第三者的存在が困難に立ち向かう姿が描かれています。

そこには、社会的な不安の中で「ヒーロー」を求める意識が反映されているようにも見えます。

映画『破墓/パミョ』トレーラー

本作で特にユニークなのは、戒律に縛られ、それぞれに罪や葛藤を抱えた修道女二人が協力し合う点です。

自身の存在を否定するかのように、悪魔祓いに否定的なミカエラ。そして手段を選ばず悪魔に立ち向かうユニア。対照的な二人が過酷な試練を共有する中で、ミカエラは自らの運命を受け入れ、進むべき道を見出していきます。

この構成は「生きづらさ」に苦しむ人が、自分にはない大きな強さを持つ誰かと出会うことで、一歩を踏み出すきっかけを得る物語と解釈することもできます。

誰かに救われるのではなく、誰かの覚悟に背中を押されることで、自らの運命を選び取る。そのメタファーもまた『鬼胎(クィテ) 黒い修道女』という作品の重要なポイントなのかもしれません。


【次回の予告】

これは「ホラー」なのか?あるいは「ラブストーリー」なのか?

次回はボディホラー『トゥギャザー』(2/6公開)をレビューします。

おぞましさと美しさ入り混じる、悪夢のような映像世界。この物語で描かれる「人同士のつながり」や「感情」の真意に迫ります。「恐怖」を用いて描く新たな視点が多くの話題を呼んだ本作。当サイトならではの深堀考察に是非ご期待ください!


English Summary

“Dark Nuns”: A Tale of Liberation Hidden Behind the Mask of Horror

In “Dark Nuns,” director Kwon Hyeok-jae delivers a solemn occult drama that prioritizes atmosphere and conviction over cheap jump scares.

Moving away from traditional exorcism tropes, the film focuses on the “internal struggle” of two nuns, Junia and Michaela, as they defy religious taboos to save a young boy. We define this film’s fear not as mere terror, but as a form of “Awe”—a heavy, reverent atmosphere born from stunning cinematography and a somber score.

Ultimately, “Dark Nuns” serves as a powerful metaphor for breaking free from social labels and finding the strength to reclaim one’s self. It is a “story of liberation” told through the lens of horror.

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