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【公開前レビュー】『FRÉWAKA/フレワカ』(LV.4)『変わった国と、変われなかった場所』の物語で描かれる静かな恐怖
怖さレベル4:要注意

【怖さレベル4:注意】「怖さ」がかなり具体的なレベル。ホラーが苦手な人は「要注意」!


アイルランドに伝わる民間伝承やケルト神話に宿る祈りと呪い、そんな神秘的イメージを現代的解釈で描き出したホラー映画『FRÉWAKA/フレワカ』

本作は2024年の『シッチェス・カタロニア国際映画祭』における最優秀作品賞ノミネートをはじめ、本国アイルランドにおける2024年、2025年の映画祭で多数ノミネート、および受賞を果たし、ホラーという枠を超え「アイルランドの映画」として高く評価を得ています。

アイルランド語を主体として展開していくこの物語は、じわじわと体に染みわたってくるような恐怖感を見るものに与えていくフォークホラー。急に飛び出してくるショック描写ではなく、観終わった後に『自分の血筋や過去は大丈夫だろうか』と背後を振り返りたくなるような、逃げ場のない心理的圧迫感に溢れた、知性すら感じさせる作品であります。

【概要】

(C)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

アイルランドにおける土着の儀式とともに受け継がれてきた神秘、恐怖と、女性たちの断ち切れない痛みを描いたホラー。

作品を手掛けたのは、アイルランドの新鋭アシュリン・クラーク監督。

主演を務めたのは、アイルランドのテレビドラマで活躍中のクレア・モネリー。ほかにも『イニシェリン島の精霊』のブリッド・ニー・ニーチテイン、『マグダレンの祈り』のドロシー・ダフィらが共演に名を連ねています。

原題:Fréwaka

監督・脚本:アシュリン・クラーク

出演:
クレア・モネリー、ブリッド・ニー・ニーチテイン、ドロシー・ダフィほか

配給:ショウゲート

公式サイト

劇場公開日:2026年2月6日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

【あらすじ】

古の婚礼の夜。幸せに包まれた光景のはずでしたが、そこで花嫁はこつ然と姿を消します。

その半世紀後、片田舎の外れに住む老婆を介護する仕事に就いた看護師シューは、アイルランドの田舎の村を訪れます。

しかし彼女はやがて、その村に漂う“何か”の気配を感じていきます。「ヤツらに気をつけろ」とおびえる老婆、どこからか聞こえてくる歌、蹄鉄で閉ざされた赤い扉、藁の仮面を被った人々、そして謎の祝祭。

やがて老婆の家と周辺では、この地に伝わる古の光景が再び浮かび上がり、シューは一つの恐怖に引きずり込まれていくのでした。

【『FRÉWAKA/フレワカ』の感想・評価】

【戦慄分析】「ジャンプスケア」「ゴア」以上の効果を狙った恐怖表現

当サイトによる怖さレベル:LV.4(恐怖の余韻あり)
図:映画『FRÉWAKA/フレワカ』の「怖さ」レーダーチャート

グロテスクなビジュアル:中程度(ホラーに慣れている人向け。ただし量は少)

音響による不快感・ノイズ:あり(中)

演出分析:「見せない」ことで深まる恐怖
(C)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

本作はいわゆるジャンプスケアや過剰な残酷描写に依存した作品ではありません。

直接的な恐怖表現はごくわずかであり、その点だけを切り取れば、刺激の強いホラーを期待する観客には物足りなく映るかもしれません。しかし本作において重要なのは、その「少なさ」こそが、恐怖を持続・増幅させる装置として機能している点にあります。

わずかに挿入される直接的な恐怖表現は、単なるショック要素ではなく、観客の心理に深い亀裂を残すための“起点”として配置されています。

それらは物語全体に漂う救いのなさ、不穏な空気の印象を強め、後戻りのできない感覚を徐々に植え付けていきます。

(C)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

本作は「恐怖に至るまでの経緯」そのものを重視しているといえます。「なぜここまで不穏なのか」「なぜ逃げ場がないと感じるのか」その過程を丁寧に辿ることで、単なる怖さを超えた、この物語の本質が浮かび上がってくる構造になっているのです。

まず「過去」という名の重力が大きなポイント。 本作のタイトル『FRÉWAKA(フレワカ)』は「根」を意味するアイルランドの言葉「fréamhacha(フレーバハ)」に由来した言葉です。根は深く、暗く、意志に関わらず魂を縛り上げる。一度足を踏み入れれば、時に自身の血の記憶さえも敵に回してしまいます。

また主人公の女性シューは善意で老女を助けようとしますが、その彼女の癒やしの手が呪いの連鎖を完結させてしまうわけで、善意という名の迷路に出口はありません。

そして物語の結末が提示されないことこそが、この物語の最大の絶望といえるでしょう。なぜなら、それは『終わった』のではなく、『永遠にその状態が続く』ことを示唆しているから。これこそが『救いのなさ=5』という本作の特徴的なポイントのゆえんであります。

ちなみに本作は『シッチェス – カタロニア国際映画祭』で2024年最優秀オリジナルミュージック賞、2025年の『アイルランド映画テレビ賞』で最優秀オリジナルミュージック賞を受賞と、他の受賞歴と合わせて音楽面での評価も高く、独自の雰囲気を醸す音世界も注目であるといえます。

【作品の批評】美しい風景の中で不安な表情を見せる人物が語る絶望

(C)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

本作の舞台となるのは、アイルランド。

この地よく映画や文学の中でしばしば描かれてきた、陰鬱で閉塞感のあるイメージを想起させる場所ですが、本作の画作りはそうした固定観念に寄りかかりすぎることはありません。

どちらかというと湿っぽさを強調するのではなく、美しさと不安が共存する風景として描かれている点が印象的。伝統的なアイルランドの自然や建築が持つ素朴な美しさと、そこに漂う説明のつかない違和感。そのコントラストが、物語全体に独特の緊張感を与えています。

そして何より際立つのは、景色と人物の対比表現。主人公シューの表情には苛立ちや不安、戸惑いが繰り返し映し出されていきます。

言葉で多くを語らずとも、その表情から彼女がこの土地に馴染めていないこと、どこか拒まれている感覚が伝わってくるかのよう。そこには製作側の意図が、明確に見えてきます。

(C)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

風景は美しくも、その中で生きる人間の内面は、静かにすり減っていく。そんな状況が見る側に染み入ってくるようです。

全体的に物語の進行はそれほどトリッキーな感じも見せず、淡々と進んでいきます。そこには極端な明暗の演出や、派手な展開もありません。

それでも、人の表情や出来事の積み重ねによって、じわじわと絶望感のような感情が蓄積されていきます。その地味さこそが本作の恐ろしさであり、観る者の心に長く残る要因となっています。

また、本作では「アイルランド語を使用して紡がれる初のホラー作品」として関心を呼んでいる作品でもありますが、作中で響くアイルランド語の響きは、単なる地方言語ではなく、土地に眠る異形の存在のようです。

例えるならケルトという土地のルールを司る、慈悲のない絶対的存在である妖精シー。物語の会話は、それを呼び覚ます呪文のように耳にこびりついていきます。

冒頭の都市部で語られる英語の会話から、展開によって「英語が通じない環境」が現れてくる様は、救いが通じない世界に入り込んでいく、という状況と同義であるようにも見えてきます。


【深掘り考察】アイルランドに残る「古きもの」と「新しきもの」断絶としての恐怖

(C)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

本作の不穏さを理解するためには、現代アイルランドが抱える「新旧の断層」に注目すべきといえます。それは本作が描いている恐怖は単なる「怪異」ではなく、社会の中に今も残る価値観の衝突から立ち上がってくるものであるという理由に起因します。

まず本作で強く印象づけられるのは「古きもの」の存在。地方の共同体に根付いた伝統、血縁や土地への執着、長い時間をかけて守られてきたしきたり。そこでは個人の意思よりも、共同体の維持が優先されます。

一方でシューが介護をすることになった老婆に着目すると、彼女が体現しているのは、まさにそうした価値観であり、彼女が必死にしがみついているものは、善悪では単純に切り分けられない「古くから続く何か」であることが見えてきます。

それは呪いであると同時に、拠り所でもある。ないがしろにすれば共同体そのものが崩れてしまう――そんな恐怖が、彼女の行動から滲み出ているわけです。

(C)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

一方で本作におけるシューは明らかに「新しきもの」を象徴する存在として描かれています。都市的で現代的な価値観を持ち、同性のパートナーと生きる女性。

この彼女の背景は、2010年代以降に大きく変化してきたアイルランド社会の姿を体現する存在だといえます。彼女にとって人生は「自ら選び取るもの」であり「出自や土地がすべてを決める」ものではありません。

しかしこの二つの価値観は、本作の舞台では決して交わるように見えません。「新しきもの」は理解されず、「古きもの」は更新されない。その断絶こそが、物語全体に漂う逃げ場のなさを生み出しています。

作中で待ち構える「正体不明なもの」も、明確な悪としては描かれていません。それは古き価値観そのものの象徴であり、守るべき伝統であると同時に、個人を犠牲にする装置でもあります。

(C)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

ラストで主人公が選択する行動は、敗北や服従と断定するにはあまりに曖昧にも見えます。それは運命の受容であるとともに、他に選択肢のない状況が生み出した結果であるともいえます。

本作はアイルランドという国を背景に「変わった国」と「変われなかった場所」の対立を、静かで残酷なホラーとして描き出します。その恐怖は過去の亡霊ではなく、今もどこかに残る現実の影といえるのではないでしょうか。

編集部こぼれ話:深掘り考察の裏側

いつもの編集部、「深掘り考察」についての議論にて。

黒野:「この物語の舞台は、アイルランド。アイルランドといえば…やっぱり『コミットメンツ』『シングストリート』だよな。底辺の人が不遇の時代を過ごしながら、イギリス、ロンドンにあこがれて、って…」

チャット(ChatGPT):「な~に言っているんですか!?いつのアイルランド?この国は2015年ころの経済成長で大きく様変わりして、そんなイメージは過去の話ですよ!?」

黒野:「えっ!そうなの…だってアイルランドの映画のイメージって大体あんな感じじゃん!?そんな頭ごなしに否定すんなよ!?ん!?」

ジェム(Gemini):「ま、まあまあ…編集長の思っていることもそれほど間違いはないし、時代がね、時代が…時代性っていうところで整理しましょうよ、あとは『地方で古く残るもの』という視点で、ね?」

黒野:「…ちぇっ…」

チャット、ジェム:「…(ったく、子供かよ…)」

……やはりAIは大変です(笑)


【次回の公開前レビュー』】

次回は日本発、人気タレントであるゆりやんレトリィバァ監督作の『禍禍女(2/6公開)をレビューします。

人気お笑い芸人のゆりやんレトリィバァが映画監督に初挑戦、さらに高石あかり、前田旺志郎、鈴木福ら知名度の高い若手俳優が名を連ね、さらに田中麗奈、斎藤工らのベテランも登場と、話題沸騰ながら未だそのあらすじも公開されていない、謎の物語……。

ビジュアルだけではない、かなりぶっ飛んだストーリー展開にも、あなたは圧倒されること間違いなし!当サイトならではの深堀考察に是非ご期待ください!


English Summary

Title: FRÉWAKA – A Haunting Irish Folk Horror Where Ancient Roots Bind the Soul

Overview: Directed by Aislinn Clarke, FRÉWAKA is a groundbreaking film recognized as the first horror feature spoken primarily in the Irish language. It has garnered international acclaim, including a Best Picture nomination at the Sitges Film Festival and multiple awards for its hauntingly original score.

Plot: Shoo, a modern palliative care nurse from the city, takes a job in a remote Irish village to care for an elderly woman, Peig. However, she soon finds herself ensnared in a world of ancient rituals, straw masks, and whispered Gaelic songs. The village hides a dark secret tied to a bride who vanished decades ago, and Shoo’s attempts to “heal” Peig may be the very thing that completes a dormant curse.

Analysis & Themes:

Hopelessness Level 5: The lack of a clear resolution suggests that the horror isn’t an event that “ends,” but a state that persists eternally. It is a profound, intellectual terror that lingers long after the credits roll.

The Weight of “Roots”: The title FRÉWAKA (derived from the Irish word fréamhacha) symbolizes the inescapable grip of ancestry. The film explores the “Gravity of the Past,” where one’s own blood memory can become an enemy.

Modern vs. Ancient: The story highlights the clash between the “New Ireland” (represented by Shoo’s urban, LGBTQ+ identity) and the “Old Ireland” (represented by the village’s rigid traditions). This cultural chasm creates a suffocating sense of isolation.

Aural Terror: Eschewing jump scares, the film utilizes the rhythmic, incantatory nature of the Irish language and award-winning sound design to create an atmosphere of dread.

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