暗黒の共鳴 ― ホラー映画の視点で読み解くヘヴィメタル 第1回:メイヘムとブラックメタル、その“正直すぎる”狂気
ヘヴィメタルという音楽は、そのビジュアル的イメージや「攻撃的」「退廃的」と称されるサウンドイメージなどからも、ホラージャンルとの繋がりをあちこちで指摘するこえもあります。
本コラムでは70年代末に誕生したとされるこのヘヴィメタルという音楽とホラーとの接点を考察してみたいと思います。
ヘヴィメタルの中には、映画のホラー以上に“現実で恐ろしい出来事”を生んでしまったジャンルが存在します。それがブラックメタル、そしてその中心にいたのがノルウェーのバンド、メイヘムです。
いよいよ季節的にも春めいてきたこのごろ、北欧の「最恐の語り部」「ブラックメタルの祖」ともいえるノルウェー発のヘヴィメタルグループ、メイヘムが4月、日本に訪れます。
冒頭で示したように近日メイヘムが来日するというトピックスから、第一回となる今回は、まず彼らのバンドとしての経緯をもとにヘヴィメタルの過激なサブジャンルであるブラックメタルという視点でその接点を探ってみます。
【ミニ知識】ブラックメタルとは? 1980年代にヘヴィメタルから派生した、最も過激で内省的なジャンルの一つ。高速のビート、絶叫に近いボーカル、そして反キリスト教的な思想や、北欧の厳しい自然を反映した冷徹な世界観が特徴。
1.なぜ「世界で最も幸福な国」と呼ばれる場所から「暗黒の音楽」が生まれたのか?

70年代末に誕生し、80年代に世界で爆発的な広がりを見せたヘヴィメタル。当時このジャンルにおいて、ブラックメタルはどちらかというとニッチな存在でした。
しかしこのジャンルが生まれたとされる北欧、特に誕生の地でもあるノルウェー国内では、近年非常に大きな位置づけを獲得しており、「支持されているジャンル」となっています。ヘヴィメタルの一ジャンルとして世界的に見ても、まさに「無視できない」ものと変わってきました。
この地でメイヘムが誕生し大きな影響として広がりを見せた経緯としては、ブラック・サバス、ヴェノムなどといったヘヴィメタル創世記の重要バンドが持つサウンド的、イメージ的な影響もあるかと考えられますが、他方でノルウェーという国の風潮的な部分が大きく寄与したことが想像されます。
1998年に初版が発刊された書籍『ブラック・メタルの血塗られた歴史』には、ノルウェーという国の社会的傾向に、この音楽を生んだ要因があるという考察が記されています。
国連の『世界幸福度報告書』で2017年に1位、以降もトップ10圏内を維持する「世界で最もしあわせな国」、ノルウェー。一方でこの国の映画などのメディアに対する検閲はかなり厳しく、特にホラー映画のような刺激のあるメディアは、極端に抑圧される傾向があるともいわれています。
この光景は、まるであのアリ・アスターによる衝撃ホラー『ミッドサマー』の「幸福なコミュニティの裏側にある不気味さ」を彷彿します。
とある明るく平和な村が、実は最も逃げ場のない地獄だった様を語る『ミッドサマー』のイメージは、ブラックメタルがノルウェーの「幸福な国」という背景の裏で密かに成長を遂げてきた姿と、非常にイメージが重なります。
このような誕生の経緯からもブラックメタルとホラージャンルとの接点は、強く垣間見られてくるわけです。
2.「たわごと」との訣別――映画『ロード・オブ・カオス』が示した「踏み越えてはならない境界線」

ノルウェーにおけるブラックメタルの歴史の中でも、1983年に結成されたメイヘムはそのムーブメントの誕生のきっかけであり、彼らが歩んできた道筋はその後のブラックメタルの広がりに大きな影響を及ぼしてきました。
その衝撃的な経緯は2018年の映画『ロード・オブ・カオス』でも語られているとおり。彼らが初期に世間に残してきたセンセーショナルなイメージ、「悪魔崇拝」「教会放火」「殺人」などといったイメージからも、ホラーとはさまざまな接点が考えられます。
この映画や先述の書籍でも示されている、メイヘム創世記の彼らに容疑が懸けられているさまざまな事件は、ヘヴィメタル誕生から「ショー要素」「エンタメ要素」を重視したL.A.メタルなどのムーブメントとは相反し「ごっこ遊び」から訣別したという方向にも見えます。
つまり思想を現実に移したという点において、メディアの持つ社会風刺、批判的な思想をハードコア的意志で実現したという大きな動きが、彼らの生きざまから見えてくるわけです。
ホラー映画において「スクリーンの中の殺人鬼が現実の客席に現れる」ことほど恐ろしいことはないでしょう。
メイヘムが発端として起こされたとされる事件は、まさにその『スクリーンの破壊』そのものともいえます。ただ、彼らは「悪魔崇拝という設定」を表現したのではなく、自らが『悪魔そのもの』として振る舞うことを選んでしまったわけです。
3.“汚れ”という名の演出。ローファイ・サウンドに宿る「真実の恐怖」

一方で「抑圧」を示すホラーとして見てみれば、メイヘムの音楽は抑圧された社会の裏側に潜む不安を悪魔の物語として表現していたようにも感じられます。その意味で彼らは、「平和」という名の恐怖を悪魔の物語で描いていると見ることもできるでしょう。
1988年にバンドに参加したボーカリスト・デッドは、白塗りの顔に目の周りを黒く縁取った「コープス・ペイント」と呼ばれるブラックメタル特有の死化粧のパイオニアとして知られていますが、これは単なるビジュアル演出を超えた、彼らの思想そのものを象徴しているといえるでしょう。
映画ファンであれば、以前ご紹介した『ザ・クロウ』の主人公が施していた、あの世から戻った者のような不気味なメイクを思い浮かべると、その異質さが理解しやすいかもしれません。
そして彼らが怒涛のようにかき鳴らす地鳴りのようなドラムと吹雪のようなギター・サウンドは、単なる騒音ではありません。
その非常に凶暴で刺激的とも見えるカオスの奥底には、「不協和」とは明らかに異なる、クラシック音楽にも通じるような暗黒の様式美、そして一度聴いたら耳を離れない不気味なメロディー(キャッチーさ)が潜んでいます。
それはある意味、一度見てしまったら忘れられない「呪いのビデオ」の映像が、脳裏に焼き付く感覚に近いものともいえます。
また彼らのサウンドの特徴的なポイントでもあるローファイ(低画質・低音質)性にも注目です。ブラックメタル特有の「音が汚い(わざと音質を落とす)」性質は、虚飾を剥ぎ取った『剥き出しの真実』を伝えるための手法とも見られます。
初期の彼らが放った劣悪なサウンドは、録音環境の悪さが生んだ偶然の産物だったかもしれません。しかしそれは皮肉にも『綺麗に整えられた商業的なメタル』が失った、生々しい殺気を宿していたようでもあります。
現代のバンドたちがコストをかけてまでその『最悪の音』を再現しようとする姿は、高画質なCGではなくあえて画質の荒い質感で『呪いのビデオ』的なイメージを追求する、現代ホラーの作家性にも通じているように見えてきます。
例えば1996年の映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の「あえてザラついた手持ちカメラの映像で、本物の恐怖を感じさせる」雰囲気には、どこか通ずるものが感じられるでしょう。
彼らにとっての『音の悪さ』とはある意味恐怖を呼び覚ますための、最も重要なフィルター(演出)ともいえるわけです。
4.メタルの「牙」とブラックメタルの「毒」。我々が「無視できない」理由
ここまでメイヘムという存在をホラーの文脈でさまざまに読み解いてきましたが、実は私自身、そこまでブラックメタルというジャンルを愛しているというわけではありません。
むしろ、いわゆる「L.A.メタル」と呼ばれる華やかさをたたえたサウンドを愛する私にとって、彼らの音は今でも鋭すぎるナイフのようでもあり、近寄りがたさも感じています。
一方で80年代に生まれたヘヴィメタルの多くが、商業主義という荒波の中でそのイメージの中にたたえていた「牙」を失い、お行儀の良いエンターテインメントへと姿を変えていきました。その中で、メイヘムたちが選んだスタイル、方向性は『不器用すぎるほどの正直さ』が生んだ「毒」といえるものであり、無視できるものではないとも見ています。

たとえそれが社会から忌み嫌われる事件であったとしても、彼らは自らの思想を具現化し、「牙」に相当するものを研ぎ続けることを選んだわけです。
彼らの過去が「事件」そのものであるとすれば、彼らの現在はその凄惨な過去ですら「暗黒の様式美」へと昇華させ、今という時代に伝える「語り部」となった、といえるでしょう。
彼らのステージで我々が目撃するのは、もはや単なるライブではなく、徹底的に管理された現代社会において、唯一許された『剥き出しの深淵』へのアクセス権なのではないか?ここまでの文脈で彼らに興味を持った方は、是非その目でこの真偽を確かめてもらいたい。
「ホラーを愛する者として、そしてメタルを愛する者として、その壁を越える準備ができているか?」私はまだ、自問自答を続けている次第であります。
参考:メイヘム 公式サイト
【次回の『暗黒の共鳴 ― ホラー映画の視点で読み解くヘヴィメタル』】
次回は、ヘヴィメタルの黎明期へと遡ります。
ブラック・サバスとヴェノムといったこのジャンルの「礎を築いたバンド」が、いかにしてホラーの種を蒔いたのかを探ります。
彼らはどんな「恐怖体験」からインスピレーションを受け、恐怖を煽る音楽を生み出したのか?
メタルのパイオニアたちが抱えていた根源的な恐怖に迫る、深遠な世界への旅にご期待ください。
Dark Resonance: Heavy Metal Through the Lens of Horror Films Vol. 1: Mayhem and Black Metal—The Aesthetics of Raw Honesty
The Paradox of “Heaven” and “Hell” Why did the darkest form of music emerge from the “happiest country on earth”? This column explores the origins of Black Metal, specifically the notorious Norwegian band Mayhem, ahead of their April Japan tour. While Heavy Metal and horror share thematic roots, Mayhem represents a “destruction of the screen”—where fictional horror became reality.
From Entertainment to Ideology The early history of Mayhem, dramatized in the film Lords of Chaos, is defined by arson, suicide, and murder. Unlike the commercial “entertainment horror” of 80s L.A. Metal (like Mötley Crüe), Mayhem decided to stop “playing” with demonic imagery and actually become it. This shift from entertainment to absolute ideology is akin to a horror movie killer appearing in the real-world audience.
The “Poison” of Raw Truth The distinct visuals, like “corpse paint” (reminiscent of the resurrected look in The Crow), and the intentionally “low-fidelity” sound (akin to the raw reality of The Blair Witch Project) are not merely stylistic choices but a rejection of commercial polish. It is a “necessary filter” to evoke true fear. This “poison” is the brutal, honest core that allows Mayhem to remain relevant as “storytellers” of their dark history.
[Next Volume]
The Dark Heritage: Black Sabbath, Venom, and the Birth of Metal’s Dread
In the next installment of “Dark Resonance,” we will travel back to the very dawn of Heavy Metal. We’ll explore how the foundational bands, Black Sabbath and Venom, planted the original seeds of horror within the genre. What scary experience inspired them to create music that was meant to frighten? Get ready for a deep dive into the primal fears of Metal’s pioneers.

![【コラム】[連載]暗黒の共鳴 第1回:メイヘムとブラックメタルの狂気](https://horrortopics.org/wp-content/uploads/2026/03/e69a97e9bb92e381aee585b1e9b3b4-e28095-e3839be383a9e383bce698a0e794bbe381aee8a696e782b9e381a7e8aaade381bfe8a7a3e3818fe38398e383b4e382a3e383a1e382bfe383ab-1.png?w=800)
コメントを残す