今回紹介する作品は、映画『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』。
ホラー、マルチバース、ドラマ、コメディなど、表現の垣根を越えて展開する、マルチジャンル・ストーリー。本国タイでは2023年に公開され、小規模上映から全国へ拡大する中で同年の興行収入1位(日本円で約30億円)となる大ヒットを記録。日本でも2024年の第19回大阪アジアン映画祭で上映され、反響を呼びました。
【概要】

あるきっかけで亡くなったものの、亡霊となって再び街に現れちまたを騒がせる元カノに会うため、幽体離脱の術を会得しようとする青年の姿を描いた物語。
2023年製作/125分/G/タイ
原題:สัปเหร่อ(英題:The Undertaker)
配給:インターフィルム
劇場公開日:2025年9月26日
【監督・脚本】ティティ・シーヌアン
【出演】チャーチャイ・チンナシリ、ナルポン・ヤイイム、アチャリヤー・シータ、スティダー・ブアティック、ナタウット・セーンヤブットほか
【あらすじ】
霊の存在に対する信仰の強いタイ東北部のイサーン地方。この土地で、多数の住民が妊婦のまま亡くなった女性、バイカーオの亡霊を目撃したという噂があちこちから流れてきます。
しかし元カレのシアンのもとには、同じ街に住んでいながら、彼女の亡霊が現れてくれません。どうしてもバイカーオに会って話がしたいと願うシアンは、街でただひとりの葬儀屋のもとを訪ねます。
幽体離脱の術を伝授してほしいと頼み込むシアンに、葬儀屋は彼の息子とともに葬儀屋を継ぐことを条件に、指南を開始しますが……。
【『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』の感想・評価】
「ホラー」からのどんでん返し!どこか笑える、そして最後は切ない「幽霊物語」

その意図は何なのか?ホラーの怖さと、主人公が元カノに会うために幽体離脱にのめり込むファンタジックなパート、さらに葬儀屋修行の、コミカルさと切なさの入り混じったシーンと、部分的に見ると「一体何を見せられているのだろう?」と不思議に思えてくることでしょう。
しかし筋としては「マルチバース」という言葉に惑わされそうな混沌としたカラーよりは、もっと一貫した筋が見えてきます。
そこにはバイカーオという亡霊の視点、そして主人公シアンの視点という2つの視点が存在しておりそれぞれの複雑な要素をつなげるため、敢えての「マルチバース」手法の起用となるわけです。

たとえば2022年の映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』と比較すれば、ずっと流れの見えやすい展開で物語がうまく構成されています。
物語はのちに亡霊として街に登場するバイカーオの不審な死のシーンから幕を開け、街の男たち、生前バイカーオと何らかの関係があった人々の前に突然出没します。
そのさまはまさにホラー!という出で立ち。構成だけで見るとここから終盤にかけてよくもまあ「ホラーでない」物語に変えたものだ、と少し驚くところでありますが、その流れには深い意図が感じられます。

終盤に見られる「切なさ」と「温かさ」に向け巧みに作られた流れが見えてくると、冒頭のホラー的なカラーにはいい意味で思わず「やられた!」と叫びたくなるような、絶妙な肩透かしを食らうことでしょう。
バイカーオは意図しない死に何らかの遺恨があり、人によってその見える姿を変えているわけです。
一方でシアンは「何があっても元カノに会いたい」という一途な思いが行動の原動力となっているため、たとえかなりハチャメチャな展開になろうとも怯むことなく歩み続けます。たとえ彼女が、身の毛もよだつ恐ろしい姿であろうとも…

マルチバースという言葉を先に聞いてしまうと、本作はかまえて見てしまいなにか肩透かしを食らったような感覚を覚えるかもしれません。
しかし本作の芯にあるテーマは、生死という関係をいかに受け入れていくか、どちらかというと映像的表現の前にしっかりとしたテーマがある物語であるという印象。
その意味で人によっては肩透かしを食らったような気分になる人もいるかもしれません。一方で目線を変えれば、映像の魅力の奥にある笑えて泣ける物語に、きっと誰もが気持ちを惹かれていくことでしょう。


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