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【公開前レビュー】『隣人たち』(Lv.3)「完璧な母親」が生み出す、最も身近な狂気
怖さレベル3:緊張と分析

【怖さレベル3:緊張】多少の「怖さ」はありますが、考察に集中できる中級者向け。


“ベルギーのアカデミー賞”ことマグリット賞で史上最多9部門を受賞した名作『母親たち』を、ハリウッド屈指の豪華キャストでリメイクした映画『隣人たち』

1960年代のアメリカ郊外を舞台に、隣り合う家で完璧で幸せな生活を送っていた二人の母親が、ある不慮の事故をきっかけに、互いへの疑念と妄想を暴走させていく姿をスリリングに描いたサイコスリラーです。

激しい心理戦を繰り広げる親友同士を演じるのは、共にオスカー女優であり、プライベートでも親交の深いアン・ハサウェイとジェシカ・チャステイン。名撮影監督として知られるブノワ・ドゥロームが本作で長編初監督を務め、美しくもどこか不穏な1960年代の風景を息をのむ映像美で切り取っています。

我が子を失った哀しみが「歪んだ母性」へと反転していく恐怖と、親友を疑わざるを得ない心理的葛藤が見どころの本作。「これは彼女の復讐なのか、それとも私の妄想なのか――」。観客をも疑心暗鬼の渦へと引きずり込む、美しくも残酷な絶望の全貌をレビューでお届けします。


※なお、本記事には広告プロモーションが含まれます。

【概要】

(C)2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

オリビエ・マッセ=ドゥパス監督による2018年のベルギー映画「母親たち」をリメイクし、隣人でかつ親友同士である二人の主婦が、ある事故をきっかけにお互いへの疑念と妄想を暴走させていく姿を描いたサスペンス。

『青いパパイヤの香り』『博士と彼女のセオリー』などで知られるフランスの撮影監督ブノワ・ドゥロームが長編デビューを果たしました。本作では撮影監督も務めています。

アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインが共演、母親ゆえの愛情や苦しみ、そして悲劇的な事故をきっかけに巻き起こる駆け引きを表現します。共演は『わたしは最悪。』のアンデルシュ・ダニエルセン・リー、『いまを生きる』のジョシュ・チャールズ。

原題:Mothers’ Instinct

監督:ブノワ・ドゥローム

出演:ジェシカ・チャステイン、アン・ハサウェイ、ジョシュ・チャールズ、アンデルシュ・ダニエルセン・リーほか

配給:ギャガ

公式サイト

劇場公開日:2026年7月24日(金)TOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー

【あらすじ】

1960年代のアメリカ、大都市郊外の隣り合った家で暮らしているセリーヌとアリスは親友同士。お互い裕福な家庭で、同い年の息子を持つ彼女たちは、心から幸せな生活を送っていました。

しかしある日、セリーヌの息子が不幸な事故で亡くなったことで、二人の関係性は大きく変化していき、喪失感に苦しむセリーヌは、次第にアリスの息子テオに近づいていきます。

その様子に疑念を持ちはじめたアリス。やがて二人は、狂気と妄想の渦に呑み込まれていくのでした。

【『隣人たち』の感想・評価】

1.【戦慄分析】観る者を主人公の「疑心暗鬼」にハッキングする曖昧さの恐怖

当サイトによる怖さレベル:Lv.3.0(心理的な不安感の強さに要注目!)
図:映画『隣人たち』の「怖さ」レーダーチャート

グロテスクなビジュアル/流血:ほぼなし

音響による不快感・ノイズ::小(音が「無い」ことで呼び起こす戦慄も)

演出分析:恐怖は事件ではなく、疑心暗鬼から始まる

本作は、ジャンプスケアや過激なゴア描写で観客を驚かせるタイプの作品ではありません。むしろ、本作が積み重ねるのは「何も起きない時間」です。

しかし、その静けさこそが最大の罠。観客は「いつ何かが起こるのか」と身構え続けるうちに、主人公ジェシカと同じように周囲への疑念を膨らませていきます。

不穏に見える出来事は、本当に異常なのか。それとも、自分の思い込みなのか。

本作が侵食するのは「誰を信じるか」ではありません。「自分の判断さえ信じられなくなる」という感覚です。善悪が明快なサスペンスとは異なり、誰もが少しずつ正しく、少しずつ間違っている。その曖昧さが、観客を物語へ深く引き込みます。

周囲で起きる出来事は、小さな違和感の積み重ねにすぎません。それでも一度疑心暗鬼に陥ると、何気ない出来事さえ恐怖へと姿を変えていく。その精神的な揺さぶりこそ、本作最大の恐怖といえるものです。

2.【作品の批評】二人の名優が完成させた、心理戦という名のホラー

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本作を支えているのは、ジェシカ・チャステインとアン・ハサウェイによる圧巻の演技。二人は互いを疑い、恐れ、時に優しく接しながら、その感情を絶妙なバランスで揺れ動かせていきます。

特に印象的なのは、クライマックスで訪れる観客心理の変化です。

通常、サスペンスやホラーでは決定的な事件が起きれば恐怖や絶望が頂点に達します。しかし本作では、それまで積み重ねられた疑念があまりにも濃密だったため、決定的な出来事が起こることで、皮肉にも「やはり自分の感覚は間違っていなかった」という奇妙な安堵すらおぼえてしまいます。

この歪んだ”答え合わせ”は、本作ならではの鑑賞体験でしょう。

また、舞台設定も巧みです。オリジナル版『母親たち』が持っていたベルギーの閉塞感とは対照的に、本作は1960年代アメリカ郊外の美しい住宅街を舞台にしています。

青々とした芝生、整えられた家々、理想的な家庭。そんな幸福の象徴ともいえる風景の中で、母親たちの心だけが静かに崩れていく。その鮮やかな色彩のコントラストが、物語の狂気をより際立たせています。


3.【深掘り考察】母性はなぜ、人をここまで壊してしまうのか

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本作が最後に問いかけるのは、「母親の愛は、本当に美しいだけのものなのか」という問題です。

二人の母親は、事故そのものだけでなく、「自分は母親として失格だったのではないか」という罪悪感によって追い詰められていきます。

その愛情は、子どもを守りたいという純粋な思いから始まります。

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しかし一歩間違えれば、「我が子のためなら他者を傷つけても構わない」という排他的な感情へと姿を変えてしまう。本作は、その危うさを真正面から描いています。

さらに彼女たちを苦しめているのは、事件だけではありません。

“完璧な母親であるべき”という、誰も口にはしない社会的な期待です。

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その見えない圧力が、彼女たちの罪悪感を増幅させ、冷静な判断を奪っていく。だから本作の悲劇は、一人の悪人によって引き起こされたものではありません。

母性という尊い感情と、それを理想化する社会の価値観が絡み合い、少しずつ人間を壊していく物語なのです。

この揺れる心理は1940年のスリラー映画『ガス燈』的な心理状態を、社会全体が作り出しているような格好にも見えます。

そしてその意味では、本作が描くのは母親だけの物語ではなく”こうあるべき”という期待に押し潰されそうになったことがある、すべての人の物語でもあるといえます。

愛は人を救うものとして語られることが少なくありません。しかし『隣人たち』は、その愛が最も暴力的な感情へと変わる瞬間を、静かに、そして容赦なく映し出します。

観終えた後に残るのは恐怖ではなく、「人間とは何か」という苦い問いです。その意味で本作は、派手な演出ではなく心理そのものを恐怖へ変える、極めて完成度の高いサイコロジカル・スリラーといえるでしょう。


こちらも是非!

「自分を信用できない」「何が正しいのかが分からない」という不安感にさいなまれる物語。

『廃用身』もまた、本作と同様に自身の信念の揺らぎから戦慄をおぼえていく物語。自分が拠って立つ「現実」や「信念」が足元から崩れていく恐怖を味わいたい方は、こちらのレビューもおすすめ。

目の前の人物に対する共感と疑念の激しいぶつかり合いに混乱、そこに自身の身の上にある不安定な特質が絡まり、主人公が追い込まれていく姿を描いた『白い車に乗った女』のサスペンス性も、本作に通ずるものが感じられる。相手への共感と疑念の狭間で脳がバグっていく、ヒリヒリした心理サスペンスがお好きな方はぜひ。


【次回の公開前レビュー』】

次回は作品『怪速急行■■行き』をレビューします。

本作は、大ヒット作『破墓/パミョ』の制作陣が才能を見出した新鋭監督が放つ、日常浸食型の韓国発ミステリーホラーです。

再生数に伸び悩む動画クリエイターのダギョンは、国内で最も行方不明者が発生すると噂される地下鉄「光臨駅」の都市伝説を取材し、動画を公開します。動画はたちまち万バズを記録しますが、再生数への飽くなき欲望に駆られた彼女は、さらに噂の真相を追い求め、引き返せない闇へと足を踏み入れていきます…。

監督・演出を務めるのは、ホラージャンルで頭角を現す注目の新鋭タク・セウン。主人公ダギョン役をドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のチュ・ヒョニョンが演じ、長編映画初主演を果たしています。

作品はアジア最大級の映画祭である第29回釜山国際映画祭の「ミッドナイト・パッション部門」に正式出品され、世界中のホラーファンから高い評価を獲得しました。見どころは、電車、自販機、吊革といった「ありふれた日常」が突如として不気味な恐怖へと変貌していく独創的な演出!

当サイトならではの深堀考察に是非ご期待ください!


English Summary

Title: “Mothers’ Instinct” Pre-Release Review: The Fragile Sanity of a “Perfect Mother”

Summary: Mothers’ Instinct, featuring Academy Award winners Anne Hathaway and Jessica Chastain, is a psychological thriller set in the pristine 1960s American suburbs. The film deftly avoids cheap jump scares, choosing instead to slowly infect the audience with the protagonist’s growing paranoia, making you question your own perception of reality.

Contrasting the vibrant, sun-drenched suburbs with the crumbling sanity of two grieving mothers, the film serves as a chilling deconstruction of maternal love. It explores how the unspoken social pressure to be a “perfect mother” can twist pure affection into a weapon of self-destruction and silent malice.


こちらもあわせていかが?

1)『母性』湊かなえ

「母性とは、本当に天性のアガペー(無償の愛)なのか?」
映画が描く「美しくも残酷な母性の反転」に身の毛がよだった方には、湊かなえの小説『母性』を強くおすすめします。一歩間違えれば狂気へと変わる「母親という呪縛」を、異なる視点から冷酷に描き出した傑作です。

2)『完璧な私の、完璧な秘密』ハリエット・レーン(原題:Her)

「恵まれた隣人の日常を、静かにハッキングしていく悪意」
1960年代の美しい住宅街を舞台にした本作のように、美しく整えられた「完璧な生活」が、静かな悪意によって内側から侵食されていくスリラー小説。読後、あなたの隣人の「微笑み」の見え方が変わるはずです。


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