Horror Topics ホラトピ!:社会と心理からホラーを読み解く考察サイト。
【深堀り考察】『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』(Lv.3)美しくも残酷な悪夢の“怖さ”で描く生きづらさの正体
怖さレベル3:緊張と分析

【怖さレベル3:緊張】多少の「怖さ」はありますが、考察に集中できる中級者向け。


『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』など、イギリスを舞台とした印象的な作品を輩出してきたエドガー・ライト監督によるホラー『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』

本作はファッションデザイナーを志してロンドンに上京してきた女性が、夢の中で過去のソーホーに迷い込み、一人の歌手志望女性にまつわる謎の事件を目撃するとともに、その事実がやがて現代の彼女の精神を脅かしていくさまを描いた物語です。

世界的にも独特の雰囲気を持ったロンドンの繁華街ソーホーを舞台に、現代と過去を行き来し驚愕の運命を迎える一人の迷える女性が隠された真実に向かっていく姿を追います。

また本作は2021年9月4日に開催された第78回ヴェネツィア国際映画祭でワールド・プレミア上映、そして同年イギリス、アメリカで劇場公開され、そのユニークな物語で話題を呼びました。

※なお、本記事には広告プロモーションが含まれます。

【概要】

(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ファッションデザイナーを志し田舎からイギリスのソーホーへ上京してきた一人の女性が、とあるきっかけで過去の知られざる出来事に接触し運命を翻弄されていく姿を描いたサスペンス・ホラー。

『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督が作品を手がけました。

メインキャラクターとなる二人の女性を『ジョジョ・ラビット』『オールド』のトーマシン・マッケンジー、Netflix作品『クイーンズ・ギャンビット』のアニャ・テイラー=ジョイが担当します。

原題:Last Night in Soho

監督・共同脚本:エドガー・ライト

出演:アニャ・テイラー=ジョイ、トーマシン・マッケンジー、マット・スミス、ダイアナ・リグ、シノーブ・カールセン、マイケル・アジャオ、テレンス・スタンプ、リタ・トゥシンハム、ジェシー・メイ・リー、カシウス・ネルソンほか

配給:パルコ

【あらすじ】

ファッションデザイナーを夢見て田舎から上京、ロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学したエロイーズ。しかし寮のルームメイトをはじめその生活になじめない彼女は、一人暮らしを始めるべく一軒のアパートを見つけ引っ越しを果たします。

ある日、彼女は夢の中できらびやかな1960年代のソーホーで歌手を目指す美しい女性サンディに遭遇、その姿に魅了され夜ごと夢の中でサンディを追いかけるようになります。

そして次第に身体も感覚もサンディのたたずまいと重なっていくような感覚をおぼえるエロイーズ。いつしか夢の中での体験は現実世界にも溶け込み、彼女は充実した毎日を送るようになっていきます。

ところがある日、彼女は夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまい、さらに現実では謎の亡霊が出現し……。

【『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』の感想・評価】

1.【戦慄分析】 恐怖はなぜ美しく見えるのか―旋律としての「怖さ」

当サイトによる怖さレベル:LV.3(多少の緊張あり)
図:映画『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』の「怖さ」レーダーチャート

グロテスクなビジュアル/流血:あり(多少あり、ホラーに慣れている人向けではあるが、初心者でも問題なし)
音響による不快感・不協和音:あり(中)

演出分析:機能的な意図を感じさせる「恐怖演出」
(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

本作における恐怖表現は、いわゆる「ゴーストホラー」の定番的な要素を備えています。

鮮血を伴う殺人シーンや亡者の出現といった、視覚的には強烈な場面が描かれますが、本作の恐怖は観客を純粋に驚かせたり、嫌悪感を与えたりするためのものではなく、むしろそれらはどこか美しさを帯びたメタファーとして機能しています。

血なまぐささや猟奇性を期待する観客にとっては、やや物足りなく感じられるかもしれません。しかし本作の恐怖描写はスタイリッシュな映像と音楽の中に溶け込み、物語のテーマを強く印象づける「スパイス」として配置されます。

亡霊たちは単なる脅かしの存在ではなく、過去に置き去りにされた声なき感情や記憶の象徴として現れ、観る者にその本質を追わずにはいられない感覚を与えます。この「怖さ」は断続的に繰り返される旋律のように、観客の心に静かに染み込み、鑑賞後もなお残り続けるでしょう。

その意味で本作の「怖さ」は、いわゆるジャンプスケアのような瞬間的衝撃よりも、見る者の記憶の奥底に刻み込まれるような、持続的な不気味さにその本質があるといえます。

2.【作品の批評】過去と現在が交差する映像美が醸す映画作品としての完成度

(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

本作は古き時代の殺人映画や鮮血映画を彷彿とさせるビジュアルを持ち、イタリアン・ホラーの流れである「ジャッロ」の影響も色濃く感じられます。

1960年代を象徴するネオンの赤と青のコントラスト。その色彩は観客を幻惑するとともに、逃げ場のない悪夢の予感をおぼえさせます。

なかなかに残酷な描写が含まれているにもかかわらず、アニャ・テイラー=ジョイ演じるサンディの妖艶なルックスと相まって、そこには不思議な「美しさ」が宿っています。

主人公エロイーズを演じるトーマシン・マッケンジーと、テイラー=ジョイの対比も見事です。現代と1960年代のロンドンがパラレルに展開する中で、二人の行動や思想の共鳴と差異が映像の中で巧みに表現されています。

(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

その二つは物語のクライマックスで交差することで、物語の謎を明らかにしていきますが、それを単なる伏線回収に終わらせず、作品全体のテーマと強く結びつけている点に高い完成度を感じます。

エドガー・ライト監督はこれまでも『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ホット・ファズ』『ベイビー・ドライバー』などで、イギリスらしさを巧みに映画に織り込んできました。

本作の舞台であるロンドン・ソーホーもまた、繁華街でありながら独特の歴史と空気感を持つ場所です。この物語は、ニューヨークや東京では決して同じ意味を持たなかったでしょう。ソーホーが舞台だからこそ成立した物語であるといえるものであります。

3.【深掘り考察】過去と現在が映し出す「生きづらさ」という共通項

(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

本作が内包するテーマとしてまず浮かび上がるのは、1960年代のロンドンに色濃く存在していた男尊女卑的な価値観への批判です。

メインキャラクターの一人であるサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)は、夢と希望を胸にソーホーへと足を踏み入れますが、その魅力や才能は次第に消費され、支配されていきます。彼女の物語は、当時の社会構造の中で声を奪われてきた女性たちの象徴として、強い印象を残します。

しかし本作が優れているのは、この過去の悲劇を単なる歴史的告発に終わらせていない点です。

物語の軸となる主人公エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、現代社会に生きる若者として、別の形の「生きづらさ」を抱えています。田舎での閉塞感、父親の不在、母親の自殺という心の傷、そして周囲との距離感。彼女は自由で多様性が認められているはずの時代に生きながらも、常に孤独と不安を抱えています

(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

サンディとエロイーズという二人の生き様は時代も境遇も大きく異なりながらも「夢をかなえたい」「自分らしく生きたい」という願いに苦しめられる点で、どこか重なり合って見えてきます。

かつては露骨な支配や搾取として現れていた抑圧が、現代ではより見えにくい形で存在し続けている。その対比を、本作は過去と現在を行き交う構成の中で浮かび上がらせています。

また、エロイーズのボーイフレンドとなる男性ジョンが黒人である点も含め、本作は現代社会に潜む偏見や違和感を過度に説明することなく描写しています。声高に主張するのではなく、物語の中に自然に組み込むことで、「生きづらさ」が特別な誰かの問題ではないことを示しているようにも感じられます。

(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

その意味でこの物語は、過去の痛みを暴き出す映画であると同時に、その痛みが決して過去だけのものではないと静かに語りかけてきます。ソーホーに響く亡霊たちの声は、歴史の中に閉じ込められた叫びであると同時に、現代を生きる私たちが日常の中で抱える違和感や息苦しさとも重なります。

本作が観客に突きつけるのは、幽霊への恐怖ではなく、時代が変わっても形を変えて居座り続ける『他者からの搾取と孤独』という名の呪い。物語はそんなメッセージを訴えています。

編集部こぼれ話:戦慄分析の裏側

(C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ある日の編集部、「レーダーチャート」数値についての議論。

黒野:「サンディの絶望を考えると、もっと『絶望度』を上げてもよくね?」

ジェム(Gemini):「いやいや、物語がエロイーズの成長で着地することを考えると、2くらいが妥当じゃないですか?そのほうが初心者にも勧めやすいですし…」

チャット(ChatGPT):「まあまあ…じゃあ、その中間にある『美しき悪夢』というニュアンスを文章に反映させる格好でどうですか?2でも若干数値的に上の感じが出ますよね?」

黒野:「うん…まあ、いいか…」

ジェム、チャット:「(…ふう、やれやれ…ホントに人間は世話が焼けるよな…)」

……といったやり取りを経て、今回のチャートは完成しました。AIさん達の苦労は続く…(笑)


【次回の深掘り考察】

次回の深掘り考察は『エスター』をお届けします。

2026年には第三作となる続編が公開予定、すでに撮影も終了しているというこのシリーズ。

ある日とある家庭に養子として訪れた一人の女の子。ところが「この子、どこか変」。

やがて家族は奇妙な事件に巻き込まれるとともに、一つの驚愕の真実に迫っていきます…

主人公エスターを中心に、この物語に隠された現実的視点や注目ポイントを、本作の続編である『エスター ファースト・キル』と合わせて深掘り考察します。

引き続き当サイトならではの独自考察にご期待ください!


コチラも是非!
本作のような“心霊系サスペンス”が好きな方はコチラへ!


この惨劇の「正体」を、その眼で確かめるなら。この惨劇の「正体」を、その眼で確かめるなら。


配信で楽しむなら、こちらが最短ルート。

(※30日間の無料体験なら、「とてつもない恐怖の体験」がし放題!)


コメントを残す