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【公開前レビュー】『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』(Lv.4) “機嫌の悪い老人”という怪物で描く「論理が通じないから恐ろしい」という構図
怖さレベル4:要注意

【怖さレベル4:注意】「怖さ」がかなり具体的なレベル。               ホラーが苦手な人は「要注意」!


法律と正義に生きてきた元判事が、病により車椅子生活となり入居したケアハウスを舞台に巻き起こる不穏な空気感を描いた『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』。

眼球のない不気味な指人形「ジェニー・ペン」を操り、老人たちを容赦なく精神的に追い詰める狂気の男・クリーリーが支配する、逃げ場のない地獄の空間における人々の恐怖や争いのさまを描きます。

本作を手掛けたのは、ニュージーランドの気鋭ジェームズ・アッシュクロフト監督。作品では狂気の支配者を演じるジョン・リスゴーと、その脅威に尊厳をかけて立ち向かう元判事役のジェフリー・ラッシュという、ハリウッド最高峰の名優2人による凄まじい演技合戦が本作最大の原動力となっています。

さらに見逃せない注目ポイントが、大ヒットホラー『M3GAN ミーガン』のポール・ルイスがデザインした、アイコンとなるパペットの不気味さ。超高齢化社会の闇をソリッドなサイコスリラーへと昇華させ、観る者の倫理観を揺さぶる衝撃作の魅力に迫ります。

※なお、本記事には広告プロモーションが含まれます。

【概要】

(C)2024 Hyenas Rule Ltd

やすらぎの場所であるはずのケアハウスを舞台に、冷酷な支配者の脅威で逃げ場のない悪夢へと追い込まれていく老人たちを追ったスリラー。

本作を手掛けたのは、ニュージーランドの演劇界で長く俳優および演出家として活躍したジェームズ・アッシュクロフト監督。本作の成功により世界的な注目を集め、『アベンジャーズ』のルッソ兄弟がプロデュース、ロバート・デ・ニーロが主演するNetflixのスリラー巨編『THE WHISPER MAN』(原題)の監督に抜擢されています。

そして『教皇選挙』のジョン・リスゴー、『英国王のスピーチ』のジェフリー・ラッシュらがメインキャストを担当、2024年・第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀主演男優賞をそろって受賞しました。

原題:The Rule of Jenny Pen

監督・共同脚本:ジェームズ・アッシュクロフト

出演:ジョン・リスゴー、ジェフリー・ラッシュ、ジョージ・ハナレ、イアン・ミューン、ヒラリー・ノリス、ホリー・シャナハン、ナサニエル・リーズ、トーマス・セインズベリー、アナペラ・ポラタイヴァオ、マーカ・ポハトゥ、パオロ・ロトンドほか

配給:エデン

公式サイト

劇場公開日:2026年6月12日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー

【あらすじ】

法を守る強い信念とプライドで長年にわたり判事として働いてきたステファン・モーテンセン。彼は、ある日病に倒れ車椅子生活を余儀なくされます。

そして郊外のケアハウスへの入居が決まった彼は、そこで「ジェニー・ペン」と名付けたドールセラピー用の指人形を手に陰湿ないじめで老人たちを支配する、デイヴ・クリーリーという邪悪な入居者に遭遇します。

彼と敵対した正義感の強い彼は、クリーリーのいじめの標的となってしまい、理不尽で屈辱的な嫌がらせは次第にエスカレートしていきます。

正義のために闘い続けてきたステファンは、その弾圧に反発すべく人生最後の壮絶な闘いに向かっていきますが……。

【『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』の感想・評価】

1.【戦慄分析】「不安感」「雰囲気」「救いのなさ」に偏る「今ならではのスリラー

当サイトによる怖さレベル:Lv.4.0(グロは少ないが、精神的ショックに要注意!)
図:映画『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』の「怖さ」レーダーチャート

グロテスクなビジュアル/流血:少

音響による不快感・ノイズ:少

演出分析:老いの果てに待つ“終わらないいじめ”という地獄

本作における恐怖の本質は、ジャンプスケアのような即物的な驚きではなく、じわじわと浸食してくる不安感と救いのなさにあります。舞台となるのはケアハウスですが、そこで繰り広げられるのは、子どもの世界に限らない「いじめ」の構造そのものです。

人はどこかで「歳を取れば人間関係のくだらない争いから解放される」と信じたくなるもの。しかし本作が突きつけるのは、その希望を無慈悲に否定する現実です。「人間は死ぬまで、他者との関係性の中で優位に立とうとする衝動から逃れられない」、その絶望的な真実が、観客に重くのしかかります。

学校の教室で起きていた出来事が、そのままケアハウスへとスライドしたかのような光景。しかもそれは、遠い世界の話ではなく「自分の未来かもしれない」というリアリティを帯びています。この想像の余地こそが、恐怖につながる本作の不安を一層強固なものにしています。

とりわけジョン・リスゴー演じるデイヴ・クリーリーの執拗ないじめは、単なる暴力以上の恐怖をはらんでいます。何度「これで終わった」と思っても、執念深く戻ってくるその存在は、まるで死後すらつきまとってくるかのような嫌悪感をおぼえるでしょう。

さらに印象的なのが、人形ジェニー・ペンの存在。一見すると愛らしいそのルックスは、逆に“可愛いもの”に対する信頼を揺るがします。可愛さの裏側に潜む得体の知れなさが、視覚的な不安を強烈に引き立てています。

2.【作品の批評】異物は二つだけ――だからこそ際立つ“現実の地獄”

(C)2024 Hyenas Rule Ltd

本作の大きな魅力は、人形ジェニー・ペンの造形と、デイヴ・クリーリーというキャラクターの異様な存在感にあります。しかし重要なのは、それらが単体で優れているという点にとどまりません。この二つの要素が「作品全体にどのような影響を与えているか」にこそ、本作の真価があります。

ジェニー・ペンは、M3GANの造形スタッフが関わっているだけあり、可愛らしさと不気味さが絶妙に同居しています。薄っぺらいゴム人形というチープな質感、目のない顔に内側から光を当てることで浮かび上がる異様な表情。その“作り物感”すらも武器に変え、不安を持続させる装置として機能しています。

そしてもう一方の軸であるクリーリーを演じるジョン・リスゴーは、圧倒的な存在感で作品全体を支配します。

1983年の映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』で見せたリスゴーの被害者的な神経質さとは対照的に、本作では他者を精神的に追い詰める加害者としての恐ろしさを体現しています。論理が通じず、ただ機嫌と気分で他者を圧迫するその姿は、現実に存在し得る人物像であるがゆえに強烈なリアリティを帯びています。

(C)2024 Hyenas Rule Ltd

そして本作が巧妙なのは、この二つの“異物”以外の要素を、徹底して現実的に保っている点です。舞台となるケアハウスは、極めて日常的で、言ってしまえば「どこにでもある空間」として描かれています。過剰な演出や誇張された世界観はほとんど存在しません。

だからこそ、ジェニー・ペンとクリーリーという二つの異常性が、異様なまでに浮き上がるのです。

さらに印象的なのが、ホームの職員たちの存在。彼らはこの異様な状況に対して、気づいていないのか、あるいは見て見ぬふりをしているのか、積極的に介入しようとはしません。この“無関心”あるいは“機能不全”こそが、本作の恐怖を決定づけています。

いじめの本質的な怖さとは、加害者の存在そのものだけでなく、それを止める仕組みが働かない環境にあります。本作はその構造を、ケアハウスという閉鎖的かつ現実的なシチュエーションの中で、極めてリアルに描き出しています。

結果として、観客が感じるのは「特別な出来事」への恐怖ではありません。むしろ、「どこにでもあり得る状況」の中で発生する逃れようのない支配と暴力への恐怖です。

ジェニー・ペンとクリーリー。この二つの異物にフォーカスを絞り込み、それ以外を徹底して現実に寄せる。その設計こそが、本作の恐怖をより根深いものへと昇華させているといえます。


3.【深掘り考察】“白”が覆い隠すもの――トラウマがつなぐ真実と揺らぐ正義

3.1 法と論理が崩壊する瞬間――支配はなぜ成立するのか

(C)2024 Hyenas Rule Ltd

主人公である元裁判官ステファン・モーテンセンは、正義と論理を信じる人物です。しかし彼の正当な主張は、クリーリーにはまったく通用しません。そしてケアハウスのある者は若い頃の栄光を忘れたかのように沈み、またある者は死へと……。

ここに描かれているのは、「正しさ」が通じない世界の恐怖です。法や論理といった文明社会の基盤は、たった一人の不条理な暴力の前では無力化してしまう。その光景は、現実の独裁や権力構造すら想起させます。

やがてモーテンセンは、生き延びるために“力”による対抗を余儀なくされます。

(C)2024 Hyenas Rule Ltd

つまり、力には力でしか抗えないというディストピア的な現実が浮かび上がってくる。生き残るために『不条理な暴力』に手を染めざるを得なくなる展開は、私たちが生きる国際社会の縮図のようでもあるわけです。

ケアハウスという「死を待つ場所」で展開されるこの対立は、まさに「人類が繰り返してきた暴力の縮図」ともいえます。人類最古の泥沼の戦争。 この映画が残す後味の悪さは、まさにこの逃れようのない構造に根差しているといえるでしょう。

3.2 トラウマと連帯、そして揺らぐ正義

(C)2024 Hyenas Rule Ltd

本作の象徴的存在ともいえる人形ジェニー・ペンは、「単なる人形」以上の意味を感じさせます。

その存在において、1980年の映画『シャイニング』に登場する“トニー”のような内面の表象を想起される方もいるのではないでしょうか。

もしトニーが「防衛本能の現れ」だとするならば、ジェニー・ペンは「クリーリーの内なる狂気や悪意を具現化した“依代(よりしろ)”」と解釈できます。彼は人形に語りかけることで、自身の支配行為を正当化し、システムとして機能させているのです。

興味深いのは、この人形が「何かを宿している」のか、その具体的な力が明示されない点にあります。

(C)2024 Hyenas Rule Ltd

愛らしさを感じるデザインであるにもかかわらず、画面に映る姿は特殊効果の表現もあって、どこか呪物めいた禍々しさを帯びています。しかし同時に、それはすべてクリーリーの狂気による“思い込み”に過ぎない可能性も否定できません。

もし超常的存在であれば、これは怪異の物語です。しかし、もしそうでないなら――ただの安っぽいゴム人形を媒介にして、一人の人間がこれほどの地獄を作り出せるという事実こそが、最も恐ろしいことになります。

「人形に操られている男」なのか、それとも「人形を免罪符に悪意を解放する男」なのか。この曖昧さが観客の認識を揺さぶり、現実と非現実の境界を崩壊させます。そしてその不安定さこそが、本作全体にじっとりとした恐怖を持続させているわけです。


こちらも是非!

象徴的なモンスターは存在しないものの、人間の深層に潜む狂気が強烈な恐怖を生み出す物語。

愛すべき女性の狂気に翻弄される男性たち。『Erica -エリカ-』で描かれる人間同士のゆがんだ関係に見える恐怖は本作に通じるものがある。

目に見える威圧性はないのに、徐々に精神を侵食していく男の姿を描いた異端者の家』。本作のジョン・リスゴーとは正反対ながら、その威圧性は共通する脅威を感じる。

『異端者の家』
(Amazon Prime Video)

【次回の公開前レビュー』】

次回は映画『祝山』をレビューします。

加門七海の実体験に基づく同名小説を原作として、本作が長編デビュー作となる武田真悟監督が実写化した、2026年6月12日公開のJホラー映画です。

スランプ中のホラー小説家・鹿角南(橋本愛)は、同級生からの手紙をきっかけに、禁忌の地「祝山」の呪いに巻き込まれ……。

本作最大の魅力は、幽霊や怪物といった分かりやすい恐怖ではなく、人間の理解を超えた「不条理な怪異」がじわじわと日常を侵食していく点。逃れられない呪いと、狂気に狂っていく登場人物たちの姿が、観客の精神をじわじわと追い詰めていきます。

レビューではこの視覚に頼らない心理的恐怖の演出や、主演・橋本愛が魅せる「恐怖に狂っていくリアルな演技」に焦点を当て、現代ホラーのトレンドに準じたこの作品の魅力を徹底的に考察していきます。

当サイトならではの深堀考察に是非ご期待ください!


English Summary

Title: The Rule of Jenny Pen Review: A Grim Psychological Thriller Exposing the Lifelong Cycle of Human Cruelty

Summary: Set in a secluded care home, James Ashcroft’s The Rule of Jenny Pen is a chilling psychological thriller that strips away the illusion of peaceful aging. The film chronicles a grim battle of wills between Stefan (Geoffrey Rush), a stroke-ridden former judge who clings to the rule of law, and Creely (John Lithgow), a sadistic resident who terrorizes the elderly using a eyeless puppet named Jenny Pen.

Rather than relying on cheap jump scares, the film masterfully builds an atmosphere of relentless dread and hopelessness by mirroring the structure of schoolyard bullying within a geriatric setting. The true horror lies in the terrifying ambiguity of the puppet itself: is it a supernatural entity, or merely a placebo magnifying a psychopath’s malice? By keeping the surroundings unnervingly realistic while focusing on the brilliant, agonizing performances of its two legendary leads, The Rule of Jenny Pen serves as a stark, dystopian allegory for our world, proving that humanity’s urge to dominate never truly dies.


さらにこの物語にも共通する「不安感」「閉塞感」「老い」などの恐怖的要素を味わうなら。

1)『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983)

本作で加害者を怪演したジョン・リスゴーが、本編第4章で逆に『極限まで怖がる被害者』を演じた伝説の名作。この2作を観比べると、彼の演技の恐ろしさが倍増します。また第2章はとあるケアハウスにおける不思議な物語。本編のディストピア感と全く対照的な物語は、凄まじい反転の構図が浮かび上がります。

『トワイライトゾーン/
超次元の体験 (字幕版)』
(Amazon Prime Video)

2)『トジコメ』(2022)

狂った元カレに、小さな納屋(逃げ場のない密室)に閉じ込められる不条理。理不尽な監禁・支配の恐怖を感じる物語です。

『トジコメ』
(Amazon Prime Video)

3)『レリック ー遺物ー』(1974)

認知症という「老い」によって、住み慣れた家が徐々に「未知の迷宮(モンスター)」へと変貌していく精神的恐怖。


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(C)2024 Hyenas Rule Ltd
(C)2024 Hyenas Rule Ltd

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